なぜ専業主婦でいたいのかという理由

 これこそが「なぜ専業主婦でいたいのかという理由」につながっている。

 当初、詩穂は「私は不器用で、二つのことは同時にできないから専業主婦になった」と話していた。この言い方は「贅沢だ」とツッコまれやすい。だが第3話で「私は私にとって一番幸せだなあって思うものが見つかったら、そこに全ての時間をかけようって。だから家族のための家事を仕事にする、そう決めたんです」と話すのを見て、すごく腑に落ちた。

 これは贅沢とか贅沢でないとかの問題でなく、自分が何を最優先にしたいのかという問題なのだ。社会的な仕事を最優先したい人がいるのと同様に、家庭を最優先したい人もいる。ごく当然のことなのに、筆者を含む多くの人は、そのことを忘れていたのではないだろうか。

 もちろん、家事を専業にすれば、生活に必要なお金は入ってこない。だがそれが許される状況なら、専業主婦を選んだって、いいではないか。単純に働きたくないだけで選ぶ専業主婦だと困ってしまうが、誰もが自分の理想の生き方を求める権利はあるからだ。詩穂は独身時代は美容師をしていたため、苺が成長する中で、もう一度働きに出た方がいいか悩む場面もあるが、きっとその時々で選択をしていけばいいのだ。

 原作者の朱野帰子さんには数年前、小説『わたし、定時で帰ります。』について取材をさせていただいたことがある。その作品も、具体的なエピソードを積み重ねて、絶対に残業しない主人公に共感させられる内容だったが、今回もその手腕で、男である筆者も専業主婦に対する見方を大きく変えられてしまったようだ。

 もっとも、自分の結婚相手が「専業主婦になりたい」と言い出した時に、すんなり受け入れられるかは、また別問題なのだけど……(それ以前に、結婚相手が見つからないことのほうが大問題だ、というツッコミはご勘弁を)。

 夫婦でいる人や、これから結婚を考えている男性も女性も、一度『対岸の家事』を観て、自分は、そして相手はどう思っているのか、考えてみてはどうだろう?

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、歴史散歩の会を主宰。