長年、腹話術界のトップを走り続けてきたいっこく堂も、今年で62歳。2023年には初孫も誕生し、プライベートでも節目を迎えた。それでも止まることなく、今なお芸を磨き続けている。一方で、年齢を重ねるにつれ、芸との向き合い方にも変化が生まれてきたという。唯一無二の腹話術師は、今、どこを目指しているのか。本人に話を聞いた。
腹話術界のトップ・いっこく堂が目指す場所

今回の取材には、おなじみの存在である「師匠」と「カルロス・セニョール・田五作」も同席。人形は約30体あるが、実際に出番が多いのはだいたい同じメンバーだという。'24年に出演したフジテレビ系バラエティー『千鳥の鬼レンチャン』にも「師匠」と共に出演。腹話術で長渕剛や松山千春、桑田佳祐などの歌モノマネを披露し、お茶の間を驚かせた。
「普段テレビに出てもそこまで反響はないのですが、『鬼レンチャン』のときはかなりありましたね。『腹話術で歌えるのか!』って。腹話術の歌ネタは、10年くらい前にテレビで披露していたので、自分の中ではそんなに驚きはないと思っていました。でも世間的にはいまだに『声が遅れて聞こえてくる人』の印象が強いみたいですね(笑)」
視聴者層は若い世代も多く、中には腹話術そのものを知らない子どももいた。
「小学生のお子さんが『この人ずるい。人形が歌ったら合格するのは当たり前じゃん』と言っていたとか。僕が声を出しているということに気づいてなかったんです。まさかこんな反応がもらえるとは思っていなかったので、出演したのは大正解でしたね」
それまで歌ネタのレパートリーは、大人世代に親しまれる曲が中心だったが、番組出演をきっかけに若者向けの曲も聴くようになった。
「最近でいうと、Mrs. GREEN APPLEとか、Saucy Dogとかを聴きます。若い人向けのショーはなかなか機会がないんですけどね。せめて歌えるようにはしておこうと思って練習しています」
取材中、突然その場で西田敏行さんの歌モノマネを披露してくれた。口を閉じた状態であるにもかかわらず、部屋中に声が響く。
「テレビではわかりづらいですが、実は声量がかなりあるんです。胸などを使って響かせるので、大きな声もちゃんと出るんですよね」