雇用する日本相撲協会、雇用される宮城野親方、であるが、2024年4月から部屋は1年以上も閉鎖され、宮城野親方は自分の職務を遂行することができなかった。状況が改善すれば再興を認めるとはしつつも、『協会関係者によると、措置から1年経った今年3月の理事会で「宮城野部屋問題」は議題にならず。5月29日の定例理事会でも、俎上(そじょう)にのぼらなかった』(朝日新聞デジタル6/2)とあり、雇用関係にある宮城野親方の職務について協会は真摯に向き合おうとはしてこなかったと言える。
たとえ相撲協会が「一時預かりであり処分ではない」と強弁しても、宮城野部屋は実際に「閉鎖」されて、所属力士は伊勢ヶ濱部屋へ転籍し、後援会活動等も禁止されているのだから、「処分」である。ここで注目すべきは「期限」を設けてないこと。いつ解除するかの基準も明示せず、「状況が改善すれば再興を認める」と、恣意的に決定、運用する姿勢が明らかだ。
公益法人日本相撲協会の労働問題
これは雇用関係にある親方に対して、あまりに不誠実極まりないだろう。宮城野親方が「もし戻れたとしても、次に何か(周辺で不祥事が)起きれば、また厳しい処分になると思う。私は(協会から)目をつけられているから。ハラハラしながら過ごすのは、もう耐えられない」(朝日新聞デジタル6/2)と発言したのは、当然のことだ。今回の退職は追い込まれ、止むにやまれずのことだと理解できる。多くの相撲ファンが「親方がかわいそうだ」と言うのもごくごくあたりまえのことだ。
たとえばである。Aというコンビニ店で店員同士の暴力事件があった。本部はこれを重く見て、Aを閉鎖、経営者である店長を店員共々にBという店舗に移し、期限を設けず、姿勢や自覚といった曖昧なものが改善されるまでAは再開されないとなったら、どうなるだろうか? もしくは社員Aが上司らに「自覚がたりない」「能力が不明」として無期限で、本来の職務からはずされて延々と資料室でコピーをとり、シュレッダーをかける職務に就かされたら? そういう上司はパワハラと言われ、労働組合から突き上げをくらい、労働基準局の調査・指導を受け、ニュースに報道されるだろう。
さらに問題は、日本相撲協会が公益法人であることだ。法人の事業が社会全体に貢献するものであることが求められ、税制で大きな優遇措置を受けている。この4月に公益法人法は改正され、ガバナンスの透明性がより求められており、「自覚」とか「姿勢」とか「能力」とか、不明瞭なもので雇用関係にある親方を1年以上も本来の職務から締め出していたとなると、大きな問題として議論されることになるだろう。さらに「情報開示」の強化も求められているので、宮城野部屋の1年以上に渡る閉鎖の経緯をきちんと説明する責任を負うはずだ。
それにしても一体、日本相撲協会はこうした労働問題について、どう考えているのだろうか?と不思議でならない。いちライターとして筆者は非正規雇用の問題などを日ごろ取材し、さまざまな酷い事例を見聞きしているのだが、ここまでアバウトな雇用関係というのはめったにお目にかかれないというか、初めて出あう。それが日本を代表する興行団体となると、一昨年来続く旧ジャニーズ問題やフジテレビなどの問題とつながる日本社会の大いなる闇のようにも感じている。
和田靜香(わだ・しずか)相撲や音楽などエンタメを中心としたライターとして執筆をしてき