皇室とブラジルの関係

 以降も、皇室はブラジル日系社会に思いを寄せ続けた。1958年の移民50周年という節目には、三笠宮ご夫妻が皇族として初めて訪伯されている。

「1967年には、当時、皇太子ご夫妻だった上皇ご夫妻がご訪問くださいました。おふたりにはその後も2回、足を運んでいただいています。1995年には黒田清子さんが、2008年には当時皇太子だった天皇陛下にお越しいただきました。

 2015年には秋篠宮ご夫妻が、2018年に小室子さんが来伯されるなど、皇室の方々は両国や日本人移民の大事な節目には必ずブラジルを訪れてくださいます。絶えず日系社会に温かい心配りをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです」(前出・山下さん)

 前出の二宮さんは1975年、赤坂迎賓館で行われた晩さん会で昭和天皇の通訳を務めて以降、皇室の方々が訪伯の折に通訳を担当している。日系人との交流をより近くで見てきた二宮さんには、忘れられない瞬間があったという。

「1978年、当時皇太子ご夫妻だった上皇ご夫妻が来伯された際のことです。サンパウロ市内のサッカー競技場で歓迎式典が行われ、ブラジル中から7万人の日系人が集まりました。

 このとき、私は通訳として陛下が乗っておられたオープンカーの助手席に座っていたのですが、あの熱気や臨場感は忘れられません。陛下も大変な歓迎ぶりに非常に驚かれたものと拝察いたします」

1997年には上皇ご夫妻(当時は天皇ご夫妻)がブラジルでアマゾン川を視察された
1997年には上皇ご夫妻(当時は天皇ご夫妻)がブラジルでアマゾン川を視察された
【写真】現地で「天性の気品がある」と絶賛された佳子さま

 この際、ちょっとしたハプニングがあったという。

「式典の前、両陛下はサッカー競技場から車で20分ほどかかる『移民資料館』を訪問されていました。陛下は熱心に質問を投げかけておられ、周囲は“式典に遅れるのではないか”と、気が気でない思いだったのです。

 開始時間が迫る中、私はご移動を促さなくてよいものか大統領に尋ねました。すると、大統領は“熱心にご覧になられているのだから急かすようなことはやめよう”と。結局、競技場には20分遅れて到着したのです」

 皇室の方々は代々、ブラジルに心を寄せてこられた。「今回の佳子さまのご訪問で、そうしたご姿勢を踏襲したお振る舞いが随所に見られた」と語るのは『皇室の窓』(テレビ東京系)で放送作家を務める、つげのり子さん。

「佳子さまは6月12日、ブラジル政府主催の昼食会に出席されました。その際“わが家ではブラジルのイペーが花を咲かせています”とおっしゃったのです。イペーとはブラジルの国花。

 そして、美智子さまは過去に、この花を通じて日系移民の方々のご苦労を追想する歌を詠まれています。佳子さまは、ご家族から日系人への労いと敬愛の念を受け継いでいることを伝えたかったのではと拝察いたします」