NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、放送が残り2か月を切った。
スタート時から「オープニング画像が合っていない」、「主題歌が聞き取りにくい」という声が視聴者から上がり、戦時下のシーンが続くと「朝から暗い気持ちになる」といい、“愛国の鑑”となったヒロイン・のぶには「嫌いになった」という声が上がるなど、話題に事欠かない“朝ドラ”だが、芳しくなかった視聴率も徐々に回復し、最近では16%後半を維持し17%代となることもある。
強烈キャラクター、崇の母親・登美子
朝ドラのテーマとなるのは、主人公の立身出世の道のりを描いた“成功ヒストリー”。特にヒロインの人生が波乱に満ちていればいるほど、視聴者は感情移入しやすい。近代史の中で国民が最も過酷な生活を強いられたのが、戦時中と終戦直後だ。
ドラマでは、終戦を迎えて“激動”の日々も去り、のぶたちもようやく落ち着きを取り戻した。これから先は、崇が漫画家を目指し、のぶがそれを支えていきながらゴールに向かうのだろう。視聴者も平静な気持ちでドラマを見ることができるのだが、一方で“波乱”のシーンも少なくなると、平坦な内容となり、中だるみと取られる心配が出てくる。
しかし『あんぱん』では、そんな心配を吹き飛ばすキャラクターが存在していた。
それが崇の母親・登美子だ。崇と弟の千尋を捨てて再婚した登美子は、会いたくて訪ねてきた崇を「親戚の子」呼ばわりし、その上「ここに来ちゃもういけないの。伯父さんのところに帰りなさい」と追い返したり(第10話)、第20話では離婚してふらりと戻ってきて、再び一緒に暮らすようになった崇に進学のことであれこれ意見し、仲が悪くなると「嵩、ごきげんよう。さようなら」と言葉を残し、あっさりと御免与町から去っていく。
視聴者は、登美子の振る舞いに「けしからん、許せん。もう出てこないでほしい」となるのだが、それでも、毎回派手な着物を纏(まと)い、赤い口紅をさしたメイクで登場する姿には《彼女が出てくるとすべてを持っていってしまう》 という声が上がるほど、存在感を示している。