モンゴル訪問で起こった“奇跡”

 その後に足を運ばれた原爆養護ホーム「矢野おりづる園」では、被爆者である入居者たちともご懇談。「被爆した方々と真摯に向き合おうとするお心に感動した」と話すのは施設長の村上俊章さん。

「両陛下は入居者が話す原爆投下直後の体験談に熱心に耳を傾け、“大変でしたね”と、ねぎらいの言葉をかけていらっしゃいました。懇談の会場を後にされる際、雅子さまは“みなさんにお会いできてよかったです”と、おっしゃったのです。

 戦後80年という節目に両陛下がいらっしゃって、入居者の方々は“これは長生きできる”と本当にうれしそうで……。全員が生きる勇気と希望をいただいたように思います」

 7月6日から13日にはモンゴルを公式にご訪問。現地ではモンゴル抑留で亡くなった日本人のために建てられた慰霊碑へと足を運ばれた。

「第2次世界大戦の終結後、旧ソ連軍の捕虜となっていた日本人がモンゴルへと送られ、強制労働などの末、約2000人が日本へ帰ることなく亡くなっています。両陛下は慰霊碑に向かい、黙祷を捧げられたほか、抑留者の遺族にねぎらいのお言葉をかけられました」(前出・皇室担当記者)

両陛下はモンゴル抑留者の慰霊碑を訪れ、遺族にねぎらいの言葉をかけられた(7月8日)
両陛下はモンゴル抑留者の慰霊碑を訪れ、遺族にねぎらいの言葉をかけられた(7月8日)
【写真】原爆養護ホームで腰をかがめて被爆者と懇談された両陛下

 モンゴル抑留の末に亡くなった父を持つ鈴木富佐江さんは、遺族の代表として慰霊碑前で両陛下をお迎えした。

「両陛下が慰霊碑に到着されたとき、現地は土砂降りでした。その中でおふたりは200段ほどの階段を上り、傘を差しながら慰霊碑の前で追悼をなさいました。すると、直後に雨がやんで……。

 雅子さまが傘を側近に渡したかと思うと、陛下に“もう一度お参りをしましょう”と、お声をかけられたようでした。そして、おふたりは慰霊碑まで引き返し、もう一度、丁寧に黙祷をされて……。こんな奇跡があっていいのかと感動いたしました」

 両陛下のご訪問は、抑留者や遺族にとって特別なことだと鈴木さんは続ける。

「シベリアに抑留された人は65万人ほどもいるといわれる一方、モンゴル抑留者は1万4000人ほど。比較的に人数が少ないためか、スポットが当たることもなく、政府からはあまり大事にされていないという印象がありました。

 そんな中、終戦から80年という節目に両陛下が足を運び、ご参拝くださったことは大変ありがたく、亡くなった方々も感激していると思います」

 戦争の歴史を振り返る旅を経て、雅子さまは平和への希求を胸に誓われたのでは─。