求められる体制変化

 今回、暴行の被害に遭った1年生部員は、別の学校に転校することに。なぜ被害者が転校せざるを得ないのか。日本大学文理学部で教育行政学、教育財政学を専門にしている末冨芳教授に聞くと、

「日本の場合、いじめによって転校をしたり、いじめの後遺症による不登校で教育支援センターに行くのは被害者です。それは加害者側への強制措置や罰則が“いじめ防止対策推進法”などの法律で明確化されていないからです」

集団暴行事件が取り沙汰されている広陵高校野球部(公式サイトより)
集団暴行事件が取り沙汰されている広陵高校野球部(公式サイトより)
【写真】「殺人行為」保護者が実名告発、広陵高校の凄惨な“いじめ”全容

 末冨教授は、日本の法制度の不備を指摘する。

「イギリスの場合だと、深刻ないじめや隠蔽事案が発生した場合、政府から改善勧告が出されて、大々的に報道もされます。学校が実際に改善に取り組んだのかの確認も政府が行っています。

 今回の件に置き換えると、広陵高校を監督する権限を持つ広島県が、改善勧告や改善状況の確認をしなければならないということ。こうした手続きがまったく不明確なのが、いじめ防止対策推進法なのです」

 広陵高校の責任も指摘する。

「一義的な責任は、いじめを隠蔽した広陵高校にあります。今後は、高野連にどのように事実関係を報告していたのか、高野連がいじめを重大事態だと認識できなかった経緯の解明が重要です」(末冨教授、以下同)

 私立校の場合、生徒がいじめや暴力の被害に遭っても外部に申し立てをする窓口がないことが多いという。

「これを機に、高野連は相談窓口を設けるべきです。被害相談や調査を行って対応する“子どものための権利擁護機関”を少なくとも都道府県の単位で設けることが必要だと考えます」

 前出の小林氏は「高校野球という長い歴史の中で、高野連が“独裁的”な権限を持っている時代が長すぎる」といった指摘もする。

 そうした高野連の仕組みも変えるべきだと、末冨教授は唱える。

「高野連の側もルール改正が必要です。いじめを隠蔽した場合には学校ごと出場停止、いじめや不祥事の早期報告の場合は加害者の出場停止といったルールを公表して運用することで、かなりの防止ができるはずです。高野連が、高校野球における暴力根絶の宣言を示す必要があります」