やり直せるなら産まない?

 本に登場する母親たちは、それぞれのやり方で自分らしさを取り戻して、次のステップに進んでいる。カオリさんも夫や母に子どもを預けたり一時保育を利用して、できる範囲で、やりたいことをやるようになった。

「ロックフェスも好きなんですけど、夫の帰りが遅い日だと、トリまでいられなくて。この間はCreepyNutsと星野源を見逃したんですよ。ほんとつらかった!あと何年かして、子どもも一緒に楽しめるようになったら、もっと楽しいでしょうね」

 看護師の仕事も再開した。朝が早いので母に子どもを預かってもらい、週に1回健診会場に出向く。「毎回違う会場で、一緒に働く人も違うので面白いですよ」と言って、カオリさんは笑顔を浮かべる。

『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』(新潮社)の著者でNHKの記者とディレクターである高橋歩唯さん(左)・依田真由美さん(右) 撮影/吉岡竜紀
『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』(新潮社)の著者でNHKの記者とディレクターである高橋歩唯さん(左)・依田真由美さん(右) 撮影/吉岡竜紀
【写真】『母親になって後悔してる』NHKの記者・ディレクターでもある著者

 他にもカウンセリングを受けて自分を深掘りしたり、ブログ系サイトに自分の気持ちを書き留めたり。夫婦で話す時間も月に1度設けるようにした。お互いへの不満や改善点を話し合うのだが、夫の観察力にはいつも驚くそうだ。

「この1か月の間、君はこういうことで落ち込んでいたけど、このときは元気だったよねとか客観的に覚えているので、すごいなこの人って。パートナーが彼でなかったら、私はとっくのとうに死んでいたと思います。

 君は自分の生き方が好きでしょ?別に親で子どもの人生がすべて決まるわけじゃないし、自由に生きている親の姿を見て学べ、くらいの気持ちでいたらいいんじゃない。そんなふうにも言ってくれて、とても救われました」

 もし、結婚当初に戻れるとしたら、子どもを産まない道を選ぶかという質問をぶつけると、カオリさんは「難しいですよね……」と言って考え込んだ。

「産みたくないと思う自分もいるし、夫が子どもたちとわちゃわちゃ遊ぶ姿を見ていると幸せだな~と思うので、産まなきゃよかったとは断言しづらいですね」

 子どもたちを「かわいい」と思うこともないのかと重ねて聞くと、「何ミリかは……」と言って、言葉を探す。

「上の子は私が服を着替えたりすると、『ママかわいい』とか言ってくれるので、ああ、かわいいなと思いますよ。下の子が1人で遊んでいる背中を見ていると、かわいい生き物だなと。でも、無理にかわいいと思う必要はないのかなとも思います。

 たまたまこの家に生まれて、たまたま一緒に暮らしている同居人くらいの距離感で生きられたらいいのかな。中学生くらいになったら家のこともある程度はやってほしいし、家事は母親だけの仕事じゃない、みんなの責任だよと伝えていきたいですね。今は低年齢だから手がかかるのは仕方ない。ここは踏ん張りどころだよなと日々、自分に言い聞かせながらやっています」

 次回は、夫の海外赴任で自分のキャリアを中断し専業主婦になった2児の母親の話をお伝えする。

取材・文/萩原絹代

はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌記者を経て、フリーライターに。社会問題などをテーマに雑誌に寄稿。集英社オンラインにてルポ「ひきこもりからの脱出」を連載中。著書に『死ぬまで一人』(講談社)がある