「いのちの電話」でもらった言葉
そして、生後半年を過ぎるころには、カオリさんは深刻な育児ノイローゼ状態になってしまう─。
「起きるのもつらいし、常に眠いし、食欲もないし、毎日の家事も回らないし。うつ状態だったんでしょうね。『死にたい』とばっかり考えてしまって。なんか、死に方をいろいろ調べたんですよ。
でも、確実に死ねるかわからないし、死んでも何のメリットもないし、家族だって私に消えてほしいと思っているわけではない。そんなふうにぐちゃぐちゃ考えていました」
夫も妻の不調に気づいて話を聞いてくれたが、愚痴を言ってもスッキリしなかった。
悩んだ末にカオリさんが頼ったのは「いのちの電話」だ。自分の状況を説明して、「本当は保健師に相談したり病院に行ったほうがいいと思うけど、一歩が踏み出せない」と打ち明けると、受話器の向こうで年配らしき女性が優しくこう言ってくれた。
「ここに電話をかけてきたことが一歩ですよ。それができたなら、他のこともできるから自信を持ってくださいね」
その言葉に「すごく救われた」というカオリさん。地元の保健所に電話をすると、すぐ保健師が自宅に来てくれた。子どもへの虐待の可能性を考慮したのではないかという。
保健師に精神科への受診をすすめられ、病院で薬を処方してもらうようになると、カッとしたりイライラすることはだいぶ減った。
通院するときは、近くに住む実母が娘たちを預かってくれるようにもなった。それならば、もっと早く相談すればいいのにと思うが、なかなか打ち明けられない理由があったという。
「母も医療職で、子ども3人を育てながら仕事もバリバリやってた人だから、育児ノイローゼになったとは言いづらくて(笑)。それに母は昔からうつ病とか精神疾患系に否定的で、気合が足りないからこんな病気になるとか言っていたし。病院に行くときに初めて話しました。母はいろいろ言いたそうだったけど、のみ込んでくれた感じでしたね」