私が母親でゴメン罪悪感の正体
不思議なのは、そもそもカオリさんは「子どもが苦手」「母親業が向いてない」と自覚しているのに、2人も産んだことだ。理由を聞くと、カオリさんは夫のためだと即答する。
「夫が子どもを欲しがったんです。4人家族っていうのが彼の理想だったから。今もそうですけど、彼を『大好き!』という気持ちがすごく強かったので、彼が想像している人生を叶えてあげたくて。
それに夫はとても家庭向きな人で、まあ、彼がいるから大丈夫だと思っていたんですけど、『主たる育児者が母親になる』ことへの想像力が欠けていたんですね。夫の育休は5日間だったかなぁ。普段も早く帰りたいけど周りの理解を得るのが大変みたいです」
夫に「いのちの電話」にかけたことを伝えるとひどく驚かれ、カオリさんが1人になれる時間を時々つくってくれるようになった。
取材前日の日曜日も、カオリさんはメンタルが落ちてしまい、夫に頼んで「丸1日、2階の部屋にひきこもっていた」と言うが、なぜか表情は曇ったままだ。
「やっぱり罪悪感があるんですよ。夫1人に子どもたちの面倒を見させちゃって申し訳ないとか。夫は私に『罪悪感を持ったら怒るよ。君がやるべきことは精いっぱい休むこと』と言ってくれるけど、『ママどこに行ったの?』『ママがいい!』みたいな感じで泣かれると、私もつらいんですよね」
でも、夫自身が「罪悪感を持たないで」と言っているのだから、もっと甘えればいいのではないか。そう投げかけてみると、カオリさんはしばらく考えて、こう答える。
「好きな漫画の影響か、自分の中に理想の母親像がぼんやりとあるんです。いいお母さんは、優しく、穏やかで、何かを要求したらすぐ応えてくれるみたいな。
それに比べて自分はなんてダメな母親なんだろう、遊んであげられなくてゴメン、私が母親でゴメンって。もうひとりの自分が、自分を責めているみたいな状態ですね。育児を選んだのは自分なんだから、ちゃんとやりなさいよって」
思わず「まじめなんですね」と嘆息すると、カオリさんも「ほんと、まじめとはよく言われます。でも、それ以外の生き方はたぶんできないんで」と控えめに笑った。
幸いなことに、カオリさんの育児環境は恵まれている。両方の実家が近いため、何かあってもサポートを受けやすい。カオリさんの気分がすぐれず、出前や惣菜の食事が続いても、夫は文句を言わないし、話も聞いてくれる。
「客観的に見てすごく恵まれていると思います。それなのに、なぜ私は苦しんでいるんだろうって。恵まれていると思えば思うほど、悩んでいることに罪悪感を持ってしまうんです。難しいですよね」