押しつけられる理想の母親像

 そんなふうに苦しんでいる最中に、Xでタイトルを目にしたのが、『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』だ。カオリさんは興味を持ち、すぐに読んでみたという。

 著者の1人であるNHKディレクターの依田さんは、カオリさんのように罪悪感に苦しむ母親はたくさんいると話す。そして、母親たちが罪悪感を持ってしまう背景をこう考察する。

「社会が感じている母親像って結構、画一化されていますよね。母親は子どものことを一番に考えて、自己犠牲的で、おいしいごはんを作って、いつもニコニコ笑顔で迎える聖母みたいな感じで。周りの人も、理想像からちょっと外れた母親に対して、『もっと母親らしくしなさい』と言ったりする。

 じゃあ、母親らしくって、何なんでしょうね。子どもの保護者は母親だけではないはずなのに、なぜか母親だけに理想像が押しつけられている。そういった社会の圧力みたいなものが、多くの母親たちを苦しめているのだと感じましたね」

 では、カオリさんは本を読んで、どう感じたのだろうか。

「読みながら1章から泣いちゃって……。それまで孤独感が強かったんです。周りの友達は楽しんで育児している子が多いので、私は間違った母親だと思っていたから。それが、私みたいな気持ちで育児をしている人は他にもいるんだと知って、すごくびっくりしたし、共感もしました」

 本を読む前から、「後悔している」という自覚はあったのかと聞くと、カオリさんは小さく頷いた。

「たぶん、無意識にそう思ってはいたんですけど、言葉にしたらダメだなと思っていて。母親と後悔。このワードを並べていいんだと思いました。別に後悔していると言うのは自由だし、子育てを放棄しなきゃいいだけですよね。

 本を読むと皆さん、環境も年代も違うけど、育児をやり抜いている。だから、私も今を耐えよう。耐えるためにどうしたらいいか考えよう。そう思ったら、なんかちょっと楽になったんです」