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ー 物議を醸した「女性は土俵から降りて」

 

 日本初の女性宰相として注目を集める高市早苗首相。11月23日まで開催されている大相撲九州場所で注目されるのが、内閣総理大臣杯の授与についてだ。

物議を醸した「女性は土俵から降りて」

 2001年の夏場所で、満身創痍で優勝を決めた貴乃花に対して、「痛みに耐えて、よく頑張った。感動した!」と、内閣総理大臣杯を授与した、当時の小泉純一郎首相の姿を覚えている人も多いだろう。

 しかし、大相撲の土俵は“女人禁制”の場。これまでも2018年に、当時兵庫県宝塚市の中川智子市長が、土俵上での挨拶を拒まれ「悔しい」と不満を露わにしたことがあった。

 また同年、地方巡業の土俵上で挨拶の途中に、くも膜下出血で倒れた舞鶴市長の手当てに女性の看護師が土俵に上がった際、「女性は土俵から降りて」とアナウンスされたことが大きな騒動にもなった。

 高市首相が総理大臣杯を優勝者に手渡したい、と望んだときにはどうなるのか。

「女性を土俵には上げない、という既存のスタイルを守っていくというスタンスのようです」

 と語るのは相撲ライターの西尾克洋さん。その理由をこう続ける。

「1つ目は相撲の起源が神事であるということ。そして、2つ目は伝統を守るということ。3つ目は鍛錬を重ねた男性が上がる神聖な場所だというものです」

 だが多様性が叫ばれている昨今、女性だからというだけで土俵に上がれないことに納得できない人がいるかもしれない。どうして時代に合わせないのか、という声に対してはどう答えるのだろうか?

「これまで伝統を守ることで、相撲の価値を生み出してきました。髷にしても、まわしにしても、江戸時代から脈々と受け継がれてきたもの。そうした流れのうえでいろいろなことが成立している世界なんです」

 伝統、保守的と思われる相撲界。しかし、意外にも柔軟な部分もあるという。

「世界で最初にビデオ判定を導入したスポーツが相撲だと知っていますか? 1969年、横綱・大鵬と戸田の“世紀の大誤審”ともいわれている一番が導入のきっかけになったようです。また、土俵の上に屋根がつられていますよね。もともとは柱で支えていたのですが、テレビ中継が始まってから柱で見づらいとなって、今の形になったんです」(西尾さん、以下同)

 世の中や環境の変化に合わせて、相撲界はその形を変えてきたのだという。では、女性についての扱いも変わるのでは、と思ってしまうが、

「これは僕の見方なのですが、女性についての扱いは相撲の“根幹”に当たる部分なのではないかと思います。八角理事長が'18年の一件のときに見解を示していますけど、女性が穢れているから上がらせないのではない、とはっきり否定しています。

 上げないことが伝統なのだと。例えば、髷やまわしを“今の時代にそぐわない”と変えることができますか? それはもう相撲ではなくなってしまう。そういった次元の話なんです」

 譲れるものと譲れないもの。そこで守られてきた歴史や文化を否定することはできない、「男女平等」という括りでは語れない問題にどんな着地点が見いだされるのか?


取材・文/蒔田稔