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ー ビッグ3のビートたけしとタモリは隠居モードに

 

 年末の名物番組がひとつ、姿を消した。1990年に始まった『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』(フジテレビ系)だ

 司会を務める明石家さんまはラジオで、

フジテレビさんの諸事情でできない

 と語ったが―─。代わりに『さんまのお笑い向上委員会クリスマス生放送SP』が放送されるとあって「諸事情」についてはよくわからない。

ビッグ3のビートたけしとタモリは隠居モードに

 ただ「お笑い怪獣」の異名をとるこの大物芸人も現在70歳。終わる番組が出てきても当然だ。

 ビッグ3と呼ばれた残る2人のビートたけしとタモリは隠居モードだし、ひと世代下の石橋貴明は闘病中。吉本興業の後輩たちと比べても、ダウンタウンの2人や岡村隆史より元気な印象さえ受ける。

 かつて「60歳」での引退を口にしたこともあるが、そこから10年が過ぎた。そんな「長生きの秘訣」を考える上で、思い浮かぶのが「運も実力のうち」というやつだ

 安易に使われがちな言葉だが、その意味するところは深い。運を引き寄せ飛躍につなげる才能はもとより、危機を回避する嗅覚まで備わっていないと、成功は長続きしないからだ。

 有名な話としては『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)でのブラックデビルの件。当初は高田純次がやっていたが、おたふくかぜにかかったことでさんまが代役となり、これが大当たりした。

 また、唯一の低迷期とされるのが大竹しのぶと結婚していた時期。お互い仕事を優先させたくて破局に至ったものの、円満に離婚してイメージダウンを防いだ。

 かと思えば、死の危険から逃れたこともある。吉本興業のタレントはかつて、ホテルニュージャパンを東京での常宿にしていたが、空調などの設備に違和感を覚えたさんまが別の宿に替えることを要求。その後、歴史に残る大火災(1982年)が起きた。

 同様に、日航機墜落事故(1985年)にも巻き込まれかけたという。前月、ラジオ番組の収録日が変わったことで、墜落した便に乗らずにすんだとのことだが、それ以降は飛行機の利用にも慎重になった。

 この「命拾い」エピソードは12月14日放送の『誰も知らない明石家さんま』(日本テレビ系)でも、山田裕貴主演のミニドラマの中で紹介されるようだ。

 それにしても、さんまのこうした姿勢はそれまでの人生経験の賜物でもあるだろう。3歳のとき、母が病死、父の再婚相手の子だった弟は19歳で自殺している。あの「生きてるだけで丸儲け」という座右の銘も、そんな苦い過去からもたらされたわけだ。

 しかし、才能も強運も持ち合わせたさんまとはいえ、変えられないものが世の中の流れだ。

 前出の『明石家サンタ』については、来年以降、吉本が独自にネット配信する形も考えられているようだが、さんまはラジオで、

俺はネットやらないって決めてるんで、そのへんのジレンマなんですけど

 と、複雑な胸中を明かしている。確かに、吉本が立ち上げた『DOWNTOWN+』でネットでの復活を果たした松本人志ほど切実な事情もない。ただ、テレビが生んだ最大の人気者というべき人がネットに頼らざるを得なくなる、というのは、さんまよりもテレビ自体の危機だろう。

 ちなみに、この番組はクリスマスに視聴者が不幸自慢をする趣向。テレビスタッフが集まって不幸自慢をすれば、盛り上がること確実だが、もはや笑っていられる状況ではないかもしれない。

宝泉薫(ほうせん・かおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。