'10年、仲野はNHK BS2で放送された短編ドラマ『太宰治短編小説集/駈込み訴え』に出演。映画監督の西川美和氏が演出を務めた。西川氏に当時の彼を振り返ってもらった。

“映る側”ではなく、“作る側”の意図を察してくれる

撮影したとき、彼は10代。役名もない役を演じてもらいました。広い海岸の撮影で、助監督が喉を痛め声が通らなかったとき、カメラから離れたところで、エキストラに対し芝居をつけてくれていました。

 “映る側”ではなく、“作る側”の意図を察し、共に作ることができる俳優だと思いました。そのとき、将来必ずまた一緒にやりたいと感じたんです

 西川監督の願いが叶ったのは、'21年公開の映画『すばらしき世界』。カッとなりやすい荒くれ者の主人公、三上を演じたのは役所広司。殺人で服役し刑期を終えた三上を追う、若手テレビマン津乃田を演じたのが仲野だった。

 彼はこの作品で助演としての存在感が高く評価され、日本アカデミー賞優秀助演男優賞や、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞している。

主演の役所広司さんは、何も質問しないし、私からあえて役柄について話すこともしなかったんです。一方、太賀くんに対しては“あなたの役はこうだから”と語るのを神妙に聞いてくれました。彼は大人なんですよね」(西川監督、以下同)

 撮影ならではの危機も、仲野が加わると、魔法がかかる。

映画の後半では、子どもたちと大人がサッカーをするシーンがあったんです。小学校3年生の小柄な男の子がシュートを決めなければいけなかったんですが、なかなかシュートが入りませんでした。時間は日没直前。みんなハラハラしながら何度もトライし、山の端に太陽がかかるころ、ようやくゴールが決まったんです。

 太賀くんはゴールキーパーの役目だったんですが、ボールがコロコロ転がってネットを揺らした瞬間、少し遅れて派手に飛び込み地面に倒れ込んだんです

 鋭いシュートが決まったとは決して言えなかった……。

でも太賀くんのその動きがあるおかげで、鋭いシュートが決まったように見える。どこまで計算しているのかわかりませんが、そのように全体が救われる工夫をさりげなくしてくれる人です

 西川監督に、仲野をひと言で例えてもらうと、“妖怪・人たらし”だと語る。

大きな事務所で、キャリアを重ねて成功しても、いつもどこにでも顔を出してくれ、スタッフ含め誰とでも仲よくなるのはすごいなと思います。人を大切にしますし、謙虚な姿勢も信用できます

 仲野は役所をリスペクトし、共演することを夢見ていたが、その願いが叶ったのが同作だった。よほどうれしかったのか、撮影がない日でも現場に来て、役所の芝居を見て学んでいたという。

彼は役所さんを見ていて、役との深い対話をしているんじゃないかと感じたそうです。実際に撮影では、何度も胸が震える瞬間があったし、制御が利かなくなるくらい感動することもあったそうなんです。自分と役がシンクロしていくのがわかる。今までにない経験だったと吐露していました」(芸能プロ関係者)

 下積み時代に研鑽したからこそ、“天下取り”を成し遂げることができたようだ。

しずめ・ひろみち テレビプロデューサー。報道番組プロデューサーなどを経て、「ABEMA」立ち上げに参画し、2019年に独立

にしかわ・みわ 1974年、広島県生まれ。映画監督。主な作品に『ゆれる』(2006年)、『ディア・ドクター』(2009年)、『すばらしき世界』(2021年)など。著書に小説『永い言い訳』、エッセイ『映画にまつわるXについて』『遠きにありて』などがある