高市首相の挨拶
昭和元年から今年で、満100年を迎えたことを記念する政府主催の式典が「昭和の日」の4月29日、東京都千代田区の日本武道館で行われた。天皇、皇后両陛下をはじめ、高市早苗首相や衆参両院の議長ら三権の長のほか、国会議員、各界の代表ら約5600人が出席した。式典委員長を務めた高市首相は次のように挨拶している。
「(略)日本の誇るべき国柄を、未来を担う次の世代へとしっかりと引き継いでいく。私たちには、その大きな責任があります。今日この日を、昭和の時代を顧み、わが国の伝統や歴史の重みを噛みしめながら、将来に思いを致す機会としたいと思います。昭和は戦争、終戦、復興、高度経済成長といった、未曽有の変革を経験した時代でした。先の大戦の後、昭和天皇は、全国各地を巡幸され、戦没者・戦争犠牲者のご遺族をいたわり、戦後復興に勤しむ国民の皆様を励まされました。(略)
今こそ、激動の昭和を生き、先の大戦や幾多の災害を乗り越え、希望を紡ぎ出した先人たちに学び、私たちも果敢に挑戦していく必要があるのではないでしょうか」
また、首相は70年前の1956年に思いをはせ、このように述べている。
「国際社会への復帰は、日本の悲願でした。その年、イタリア・コルティナで、スキーの猪谷千春選手が、冬季五輪で日本人初のメダルを獲得します。日本人がいない米国の大学に留学し、スキーと勉学の両立に励んだ上での快挙でした。日本中が歓喜に沸きました」
実は今年2月、66歳の誕生日を迎える前に行われた記者会見で天皇陛下は、
「現在、イタリアで開催されているミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでの熱戦もテレビで観戦しています。(略)大会が行われているコルティナ・ダンペッツオでは、ちょうど70年前の1956年にも冬季オリンピックが開催されています。
そのオリンピックでのスキー回転競技で日本人として初めて銀メダルを獲得した猪谷千春さんからは、子どものころにスキーを指導していただいたこともあり、コルティナ・ダンペッツオという場所には子どものころから親しみを感じていました」
などと語っていて、猪谷千春さんが首相の挨拶で再び取り上げられたことに私は驚いた。
宮内庁は4月30日、昭和100年記念式典に出席した天皇、皇后両陛下について、
「過去の歴史から謙虚に学び、深い反省とともに平和を守るために必要なことを考え、将来へとつなげる努力を続けることが大切との思いで式典に臨まれた」
と明らかにしたが、式典では天皇陛下のおことばはなかった。「読売新聞」は、高市首相の挨拶について、《先の大戦の惨禍などには具体的に言及せず、「高市カラー」がにじむ内容となった》などと書いている。
昨年は、戦後80年の大きな節目の年だった。2025年8月15日、日本武道館で開催された「全国戦没者追悼式」に出席した天皇陛下は、次のように述べている。じっくりと味わっていただきたいので、あえて、全文を紹介したい。
「本日、『戦没者を追悼し平和を祈念する日』にあたり、全国戦没者追悼式に臨み、先の大戦においてかけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来80年、人々のたゆみない努力により、今日のわが国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります。戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ、私たち皆で心を合わせ、将来にわたって平和と人々の幸せを希求し続けていくことを心から願います。
ここに、戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和とわが国の一層の発展を祈ります」
首相の挨拶と比べてみると、陛下の言葉の重みをはっきりと感じる。陛下は、「深い反省の上に立って」、「将来にわたって平和と人々の幸せを希求し続けていくこと」の大切さを切々と訴えている。
その言葉は、私たちの心の奥底にずっしりと響いてくるのだ。陛下のこの思いは、佳子さまたちにもきっと受け継がれるであろう。
<文/江森敬治>

















