「テノール」は高音?の定義も変わる?

 コロナ禍でステージは減り、マスクで歌うなどの厳しい状況にも直面したが、メンタルにおいては案の定(?)ダメージはなかった。

「旅行はもともと行かないし、人と会わないことは私にとってストレスにならないので、まったくつらくはなかったですね。つらかったのは仕事が減ったことくらいでしょうか(笑)」

 オペラ歌手として華々しい道を歩んできた印象を受けるが、意外にも本格的な学びは大学(国立音楽大学)に入学してからだった。故郷の島根県では、中学時代は陸上の短距離とハードルで汗を流し、高校からはコーラスを体験したり友人たちとロックバンドも組んでいたという。

「勉強は嫌いだけど音楽は好きだったので、何か音楽の仕事につけたらと思って音楽大学を志望しました。声楽科でテノール専攻でしたが、まったくのど素人の状態からのスタートですから、その後は大変でしたけどね(笑)」

 その後、文化庁オペラ研修所という、2年間で10人ぐらいしか選ばれない狭き門をくぐり、テノール歌手としてのキャリアをスタートさせる。

 歌手生活の転機として、CM出演はやはり大きかったという。

「世間に顔と名前が知られるという効果は、本当に大きかったですね。あれがなかったら、人生は違っていたんじゃないかな。クラシック音楽やオペラに興味のない人にも知ってもらったわけですから。自分自身はまったく変わってないのに、不思議な感覚でしたね」

 淡々と語る錦織さんだが、デビューから変わらないマインドでわが道を歩み続けてきた自然体の魅力を感じる。

 人との付き合い方・距離の取り方にも、彼独自のスタイルを貫いているようだ。

「長く歌手人生を送ってきて、音楽の世界も変わってきたと感じます。私は男性では高い音域を出すテノール歌手ですが、昨今のポップスやロックの世界では、皆さんテノールより高い声を出すんですよね。

 Mrs.GREEN APPLE(のボーカルの大森元貴)さんやVaundyさんなんか、ファルセット(裏声)だけでなく地声でオペラ以上の高音を歌われてて、すごいなって思います。『テノールは高音』の定義も変えなきゃ、なんて思ったりして(笑)」