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 日本最大の摂食障害回復施設『なのはなファミリー』(岡山県勝田郡)で、多くの人を救ってきた小野瀬さん。10年間で培った回復と自立の方法を詳しく記した著書『「食べない心」と「親の心」』を刊行した。

「摂食障害が増えている原因を“社会構造によって起きている”という視点で分析しています。摂食障害は4~6歳のときに負った心の傷が原因で、17~18歳ごろに症状として現れる。まじめで親や友達を怒らせない子が多い。自分の意思より相手優先なんです。自我が育っていないので、スポーツ、演劇、農業などを通じ自分を形成することで、心の枝葉を増やしていきます」

 とはいえ、誰もが回復の道を歩めるわけではない。入所前、極度の過食嘔吐状態にあり、自室で食べクズやゴミに囲まれて暮らしていた子がいるという。

「ここに置くのは難しいから連れて帰ってと親御さんに伝えたら、無理です、と。体重は22キロくらいまで落ち、骨しかない。親御さんが拒否したことを伝えると、“父も兄も親戚も優秀で、私だけが面汚し。治っても、治さなきゃよかったって言われると思う”と。私は社会に出られるまで面倒を見ると約束しました」

 そこから一直線で回復へと向かったという。

「頭のいい子で、簿記検定1級を、半年勉強して一発合格。今は税理士試験に挑戦中。新しく来た子に“帰りたくないの?”って聞かれると、彼女は“帰るも何も、ここが私の家だよ”と答えています。自分が信じられる人に身を預けた人はこんなにも回復が早いのか、と思い知りました。理想的な接し方はさまざま。相手を深くわかろうとしてあげられるかどうか、が何より大切です」

 大病院で長期入院して回復できなかった患者も小野瀬さんのもとで回復をつかんだ。

「摂食障害は、先進国の痛みの象徴だと思っています。みんなで危機感を共有して、現状を変えていく必要がある。個人の資質や家庭内の問題とは言い切れません」

 摂食障害は必ず治る。ただ、外科手術や内服薬があるわけではない。個人によって処方もまるで違う。相手を理解し本気で向き合えるかどうか。その一点が確固たるものであれば回復への道は近い。