事実は小説よりも奇? 森見さんも化かされた!?

 本作執筆中、参考のために京都市動物園に狸を見に行った森見さん。なんとも不思議な出来事があったそうです。

「ちょうど改築中かなんかで、園内がゴタゴタしていたので、園の人に場所を聞いて見に行ったんですけど、どこにも狸がいないんです。もしかしたらその人は狸で、僕は化かされたのかもしれないですね」

 また下鴨家が住む糺の森には本当に狸が住んでいるそうなのですが、森見さんはそんなことを全く知らずに書いていたんだとか。

「お話の中で起きてる出来事は無茶苦茶なんですけど、京都の街の位置関係だけは忠実に書いています。観光や人が暮らしている範囲で見えるものが基本になっているので、普通に京都をブラブラッとしたら見える場所、行ける場所が出てきます。なので地図などを見ながら読むと、より楽しんでもらえると思います」

 赤玉先生の跡目を狙う弁天は二代目に戦いを挑んでいくことになりますが、実はその裏にはある秘密があったり、金曜倶楽部の手先となる天満屋という不気味なキャラも登場するなど、今回も息をもつかせない展開なのですが、ほのぼのした狸の恋愛模様や、ジーンとくる家族愛も描かれます。

 そして本書は470ページ、実測値約3.5センチ(!)というなかなかの厚さですが、物語の面白さと世界観、独特のリズムに引き込まれ、読めばフサフサフワフワな毛深きものたちが愛おしくなることでしょう。

「ひとつひとつの話がつながって、だんだん大きな物語になるので、厚さにひるまず、気楽に読んでいただければいいなと。狸の恋愛は、昨今の小説では考えられないようなシンプルな恋愛模様です。また、家族に対する気持ちも、表には出さないで秘めてたりもするんですけど、そこにある感情とか愛情もシンプルで、複雑さはないので、そういうところも楽しんでもらえたら。たぶん第三部が出るまでだいぶ時間がかかりますんで、そんなに急がずに、第一部と一緒に、ゆっくり読んでもらえれば(笑い)」

(取材・文/成田 全)

『有頂天家族』1700円/幻冬舎
『有頂天家族』1700円/幻冬舎
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■〈追記〉著者の素顔

 下鴨家四兄弟の母の実家という設定の、京都・瓜生山の麓にある狸谷山不動院。

「真夏に汗をダラダラ流しながら取材に行きました。あそこは不思議な空間で、門のところやあちこちに焼き物の狸がびっしり置かれてるんですよ。ほかには七福神の像があったりして、『有頂天家族』の世界っぽい、謎めいた場所なんです。一般の観光コースからは離れていて、石段が250段もあったりと、たどり着くのがちょっと大変な場所なんですけど、オススメです」