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 NHKの行ったアンケート調査で、“最も好きな大河ドラマ”として今なおファンの心をつかんで離さない『独眼竜政宗』。その脚本を担当したジェームス三木先生が“大河ドラマの魅力”について語ってくれた。

「今の時代は、ドラマ作りやテレビ作りそのものが難しいという根本的な問題がある。例えば、歴史認識問題。中国や韓国に気を遣わなければいけない部分が多少なりともあるわけで、そういう中で時代劇を作っていくことはとてもセンシティブなこと。言葉の規制がますます厳しくなっていくのも考えものですね。差別用語にあたらなかったため“独眼”と表現しましたが、大河バブルのあおりで『政宗弁当』なるものが発売されたときに、独眼をゆで卵で片目を、シイタケで眼帯を表現していたんだけど、それこそ『失礼じゃないの?』って思ったよ(笑い)」

 SNSなどの普及により、番組内容にクレームを入れる人が増えているが、温かく見守ってほしいと言う。

「結局、クレームや批判って個人差があるものだから、あまり深く考えないほうがいい。視聴者も、ドラマなんだから重箱の隅をつつくようなことは言わずに、もう少し温かく見守ってほしい。同時に制作サイドは批判を恐れるあまり、視聴者に媚びるような要素をふんだんに入れるのはやめるべき。過剰な視聴者目線は、本物志向や重厚さを期待する時代劇ファンと相性がよくないですよ」

 大河ドラマをじっくりと楽しむ“大人”な視聴者も減ってしまったのでは? とも分析。

「一方で、大河ドラマを嗜む“大人”が減ってしまったようにも思う。大人はすぐにクレームなんて入れませんからね。歴史や社会を理解できる大人が減れば、それだけ作品がカジュアルになっていくのもしかたないのかもしれない。全体的にそういう風潮が高まれば、なおのこと大人が生成されていく土壌がなくなっていく。大河ドラマにも袋とじのような“大人だけが見てください”というパートがあるといいのかもしれない……有料チャンネルじゃないよ(笑い)。ディレクターズカット版とでもいうのかな、大人は大人で楽しめる大河の要素を共存させつつ棲み分けができる、そんなドラマの楽しみ方を考えることもこれからは必要かもしれない」

 多くの賞を受賞するなど華々しい経歴の三木さんだが、「大河のおかげ」と感謝する。

「僕はNHK大河のおかげで今があるといっても過言じゃないんだ。’95 年に『八代将軍吉宗』を担当させていただいたんだけど、このとき僕は離婚問題で各方面から干されていて、どん底の時期だった(苦笑)。脚本家として廃業するんじゃないかと思っていた。そんなズタボロのなか、NHKの川口会長(当時)は、『八代将軍吉宗』の執筆を依頼してきたんだよ。報道陣からの“人間性に問題がある人を脚本家として起用するのはいかがか?”といった意地悪な質問に対しても、川口会長は“お家騒動は刑事事件ではない。脚本家として期待しているものは変わらない”と擁護してくれた。なんとしてでも恩に報いたくて、脚本と向き合ったことを覚えています」

 朝ドラ『澪つくし』のオファーは、脳腫瘍で生死をさまよった直後だった。

「そのおかげで脚本家として大成し、お家騒動で心身ともに疲れ果てていたときに『八代将軍吉宗』で復活させていただいた。NHKには恩義を感じるし、そういう責任感やパワーのあるNHKだからこそ、僕自身ひと皮むけることができたと思う。大河の持つ影響力というのは、間違いなく作り手にも宿るすさまじいものですよ」