『ホンマでっか!? TV』(フジ系)や『ワイド! スクランブル』(テレ朝系)など、さまざまなメディアでお馴染みのマーケティングライター・牛窪恵さん。彼女が取材・執筆した『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー携書)が話題を呼んでいる。今回のインタビュー前編では、80年代以降のドラマに見受けられる、性の開放と自由恋愛、そして告白の様子を見てきた。今回は、続いて90年代中盤から今にかけて放送された恋愛ドラマを読み解きつつ、“恋愛観”の変遷を分析していく(*前編はコチラから

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マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。1968年東京生まれ。日大芸術学部映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。その後、独立し2001年に起業。「草食系男子」「年の差婚」などを世に広める
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牛窪:1996年に放送された『ロングバケーション』(フジ系)。このドラマで最も新しかったのが「ライトな同棲」です。私たちの時代は、同棲するにしても、まずは親に断ってから……という風潮がありました。そのため、このドラマのように、いきなり主演の木村拓哉さんの家に山口智子さんが転がり込んできて同棲をするというのは、感覚的にすごく新鮮でした。そんなことが許されるのかといった驚きですね。

 また当時、同棲をする人たちは、激しい恋愛感情を抱いて同棲するパターンが多かったのですが、このドラマで山口さんは、「コスパ」で恋人でもないキムタクの家を選んでいたのも新しいです。

――同書のなかでも指摘されていた「同棲婚」の先駆けのような話ですね。

牛窪:そうですね。いまの若者の間では、同棲婚というスタイルが大変支持されていますよね。まず試してみてから……という意識が強いのでしょう。

 このドラマでは、女性が「家賃がお得」だと男性の家に転がり込むという設定ですが、いまの若者たちは、男女共にコスパへの意識が高いですよね。同棲すれば、家賃代も生活費も半分で済むという。

――さまざまな結婚のカタチが同書では紹介がなされていますが、「通い婚」や「週末婚」「別居婚」といったように、結婚していながらも別々に住むというスタイルもあるようですね。

牛窪:男女共働きが当たり前の今では、こうしたスタイルは珍しくなくなってきましたが、1999年に『週末婚』(TBS系)が放送された当時、ドラマのなかで描かれるような週末だけ会う夫婦というのはほとんどいませんでした。

 別々に住むことで、互いの転勤にも左右されず、いつまでも新鮮な気持ちでいられるのではないか、という新たな提案ですよね。ある意味、この頃のドラマというは提案型で、時代を作っていったという一面もあるのかもしれませんね。

――今後こうしたスタイルはますます増えていくのでしょうね。では、最近のドラマにおいて、何か特筆すべき傾向はありますか?

牛窪:2010年の『モテキ』(テレ東)、2015年『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジ系)では、恋愛しない若い男女がドラマの前提になっていますよね。そして女性が主導する作品が多いのも特徴です。

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――00年代は、女性の社会進出というのもかなり顕著になってきますよね。

牛窪:そうなんですよ。最近の女の子は、同世代の男の子とデートに行ってもお金を多くだしてもらえるわけでもないし、そもそも昔みたいに寿退社する割合も減って、基本的には働かないと生活していけないという環境下にあります。でも、そのなかでも仕事が楽しくなってくるとオス化したり、干物化したりして、どんどん恋愛から遠ざかる。それを半ば自虐的にとらえつつも、話のネタにしているようです。

 一方、いまの若い男の子たち。昔と比べれば男女平等が徹底されている社会なので、女性だって、恋人にあれこれ指示されても「イヤなものはイヤ」と拒否権を発動できるんですよね。そういうのもあって、男性もどんどん草食化していきます。ましてや交際前の「告白」なんて、ハードルがめちゃめちゃ高くなるわけなんです。

――たしかに、このままでは男女間で折り合いがつかないまま、恋愛はおろか結婚できない独身男女が増える一方です。

牛窪:00年代から、ネットに氾濫する画像や動画などで性的な処理を簡単にできるようになりました。そういった中で、若者たちは昔ほどセックスを憧れとしてみていなくて、そういうものは「なくてもいい」、あるいは「汚い」みたいな感覚も強いんです。

 本気で結婚を考えている相手とは“エッチなんてしなくてもいい”、“一緒に居られるだけでいい”という考え方を持つ人が増えてきました。そもそも、いまの若い男女にとって「告白」は敷居が高いし、「交際」はDVやストーカーなどリスクもあるので、セックスをするのは別腹感覚の“セフレ”とかでよかったりするわけです。こういう、ちょっと歪んだ割り切りが出てきたころですね。

――ドラマのタイトルで一目瞭然ですが、「恋愛しない若者たち」という世相を確実に反映していますよね。

牛窪:そうです。そして10年代になると『ラスト・シンデレラ』(フジ系)のように、アラフォーになっても結婚していない男女が描かれたり、「年の差婚」も注目されていますよね。

 ひと口に恋愛や結婚といっても、そのカタチは実に多様化しつつあります。その意味では、「性・恋愛・結婚」が連動して切り離せないことを前提とした旧来型の結婚が絡む法制度だったり、親御さんたちの恋愛や結婚に対する考え方を柔軟に変えていくべき時期にさしかかっているように思いますね。

――ありがとうございました。

(取材/編集部 構成・文/岸沙織)