神奈川・横浜の大型マンション『パークシティLaLa横浜』で、杭打ちデータが改ざんされた問題。当該物件と同じ現場責任者が全国で41件の工事に関わっていたことで、さらに不安を広げている。

 その問題の根本は横浜市にあると断罪し、新しい街が誕生する過程にこそ購入者を陥れる“街づくりの手法”が隠されていると、立命館大学・歴史都市防災研究所の高橋学教授(地理学)は指摘する。

「横浜市が道路を1本通し、その周辺の広い面積の土地が安値で売り出されたところ、まんまと『パナソニック』の工場や『ららぽーと横浜』などの商業施設ができ、その隣に建てた大型マンションを多くの人が“便利だ”と飛びついて買ってしまったのです」

 整地されれば土地は新興住宅地に早変わりし、コンクリートで舗装されれば丈夫そうに映るが、地層の奥深くにはまったく別の顔が隠されている。それこそが土地の歴史だ。

 高橋教授によれば、

「今回のマンションが立っているあたりは、かつて海だった。軟らかい粘土がたまっています。地層を掘ると豆腐かプリンほどの固さ。体重100キロくらいの人が立ったら、自分の重みでズブズブ沈んでいってしまうくらいです」

 と、傾きマンションの地底深くに“プリン地層”があることを指摘する。戦後、米軍のB29が全国を空撮した写真が残されており、

「大昔、海だったところは沼地に近い状態。現在、マンションが立っているあたりには軟弱な湿田が広がっていました」(前出の高橋教授)

 偽装杭打ちに加え、もとの地盤も最悪だったわけだ。

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昭和21年ごろ米軍がB29から空撮した当時の『パークシティLaLa横浜』付近の様子(写真は高橋教授提供)。白の太線が現在、マンションがあるあたりで白い点線一帯は鶴見川の後背湿地。点線内を中心に色が黒い部分は鶴見川の支流が流れていた特に低湿で軟弱な湿田

 今年9月、記録的豪雨で鬼怒川の堤防が決壊し大きな被害に見舞われた茨城・水海道のあたりも、横浜の大型マンション周辺と同じ性格。

「洪水が起きると砂がたまり、周囲より1~2メートル高くなります。これが自然堤防で人が住みやすい。その外側にある砂が届かない沼地を後背湿地といいます。水はけが悪く、洪水にも地震にも弱いところです。マンションが立っているところは、鶴見川の後背湿地。鬼怒川や横浜のマンションのような被害事例は今後、全国で起こりえます」

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先月、豪雨で決壊した後の鬼怒川の堤防付近の昭和36年ごろの周辺状況。白丸は堤防決壊個所。写真の太線はかつての鬼怒川の支流跡。南側に後背湿地が広がり今回のマンションの土地と同じ性格。洪水に耐えられず決壊した(写真は高橋教授提供)

 そう言い切る高橋教授が、全国の危険地帯の具体名を挙げ、警鐘を鳴らす。

 東京の危険地帯は─。

「雪谷、世田谷、市ヶ谷、四谷、渋谷など『谷』が付くところ。上野、有楽町、築地周辺。神保町や御茶ノ水などの神田川沿いにある建物は、ちゃんとした工事が施されていない限り危ない。品川周辺も“プリン地層”の上です」

 大阪の危険地帯は─。

「まずは梅田。本来は『埋田』でした。人が住まないから鉄道をたくさん通し、栄えていますが、災害時には最初にやられます。寝屋川、守口、東大阪、心斎橋……極論をいうと、安全なのは天王寺と大阪城付近ぐらいです」

 江戸時代まで海だった埋め立て地は関東でも関西でも危険地帯の筆頭に挙げられる。

 全国を結ぶ新幹線や高速道路も、決して安全な地盤の上ばかりを通っているわけではない。東日本大震災以降、補強工事が行われているが、

「橋脚の補強工事は、露出している部分だけで、地下の部分はされていない。以前、JRの担当者は新幹線の杭の設計が、地質にかかわらず“一緒”だと発言していました。新幹線で危ない個所は北から南まで全国にあります。例えば名古屋駅周辺ですと駅の東あたりは比較的安全です。対して西側へ行くにつれ、地盤が悪くなります」(高橋教授)

 危険をはらんだ土地だからといって、避けてばかりはいられない。その上に立つマンションが実は安全な場合もある。

 前出の高橋教授は、

「一戸建てだと地震や洪水などですぐ倒れますが、地盤が固いところまで杭をきっちり打ってあれば、高層マンションはむしろ安心」

 と、正規品の安全性に太鼓判を押す。その場合、重要なことは、大手デベロッパーだから安心と思い込まず、徹底的に調べ尽くす必要があるそうだ。