農業王国・熊本を襲った地震から1か月半。毎日の食卓に欠かせない野菜の値段が気になるが、自分で育てれば世の中のあおりを受けずに、おいしい野菜が毎日楽しめる。現在、畑を借りて野菜を育てている榊原郁恵さんにその思いを語ってもらった。


 母親は自宅の庭で野菜や花を育てていましたね。昔は残飯を庭に埋めたりして、ナスやキュウリなどを植えるのが当たり前でした。でも、特に手伝ったという記憶はないです(笑)。

 そんな私が野菜作りに興味を持ったのは「日本の食料自給率が39%」と聞いたとき。7年くらい前かな? 驚いたし、ショックでした。

 ちょうど50代に突入し、芸能界で積み重ねてきたものはあるけど、でも自分の中で「何かが足りない」「時間をかけて何かを学びたい」という思いもありました。大胆にも「食料自給率を高めるには何をするべきか?」「何かやりたい」と突き動かされるような気持ちになりました。

 ただ、具体的に何をすればいいか全然わかりませんでした。農業大学に入ることまで考えたんですが、さすがにちょっと難しい。そんな折、農業新聞さんの取材を受けたことをきっかけに、地元・神奈川県厚木市で行われている『農業塾』に入れていただきました。

 将来、農業に従事しようと思っている方々の中で、週に1回、2年間、野菜を育てる実践的なノウハウを学びました。

 最初のころは、水のやり方も日の当て方もわからず、苗をよくダメにしていました。それまで「無農薬=素晴らしいもの」と漠然と思っていましたが、そう単純な話でもなかった。農薬で虫や病気を防がなかったら、周囲の畑に迷惑をかけることもあるんです。野菜作りを通して、農業の厳しい現実も知りました。

 2年学んだら、ひとり立ちしなければいけないのですが、まだまだ知識不足。そこで、同時期に通っていた女性5〜6人で“女子部”を創設しました。みんなで畑を借りて、一緒に野菜を育て始めたのが、'11年のことです。

 現在は3人で、50mプールくらいの大きさの畑にトマト、大根、キュウリ、玉ねぎ、菜の花、エシャロット、白菜などを協力して育てています。耕運機も使っています。私、趣味らしい趣味はないんですが、野菜作りは趣味の域を超えているかも(笑)。

 収穫時期には、ものすごい量の野菜が食卓にのぼりますし、自宅のプランターでも野菜を育てています。今はリーフレタスとカブの収穫期です。家族の反応ですか?「トマトはこうやってできるんだよ」なんて畑での出来事を話すと、「へえ〜」って返事をしてもらえるのがうれしいですね(笑)。

 今は、芸能界以外に仲間がいて、その人たちと一緒に作業することが、とにかく楽しい。自然の中に、自分がふと入り込めるのも心地いいです。この年になると、スポーツで大量の汗をかくこともあまりないので、畑で汗を流すことが、とても気持ちいいんですよね。

 今も週1回は畑に行っています。朝9時半くらいから、夏場なら知らないうちに夜6時くらいまで作業していますね。仕事との両立? 全然苦になりません。大変なのは私じゃなくて、スケジュールを調整するマネージャーのほうかも(笑)。

 今までした失敗は数えきれません。最近の会心の出来は大根かな。すごくいい感じにできたので、和田アキ子さんのお誕生日に、同じく畑でとれたほうれん草とともにプレゼントしたら、すごく喜んでいただけましたね。

 今の時期は苗が豊富に出回っています。ホームセンターや種苗店に行くと、トマトの苗がかわいらしい花をつけていたりして、その愛らしい姿にそそられます。それに、野菜ってただ作るだけじゃなく、応えてくれるんです。どこかペットに近い感覚がありますね。

 どんどん育っていく様子を見るのは楽しいし、「この子たちは生き物で、私たちは生き物を食べるから元気なんだ」と心から思えます。野菜作りは、浅くも深くもできます。子育てとは違うから、言ってしまえば失敗だって許される。だから、「やってみようかな」という気持ちのままに始めてみたらいいと思いますよ。