「計測された精液においては、精子の活動が認められなかったということですね。医療機関の検査のかわりになるものではありません。何度か計測しても数値が変わらず不安であれば病院での検査をおすすめします」

 今年4月末から、都内の一部クリニックや薬局で限定500セットをテスト販売している。1箱で使用回数は2回。

「実際に自宅で使用して“夫が病院に行ってくれた”、“協力的になった”というアンケート結果をいただいています。男性の行動に変化を与えることを目的にしていますから、いい結果が出ていますね」(入澤さん)

 好感触のようだ。年度内には本格的な販売を目指すが、こんな懸念もあるという。

「たまたま精子の状態がよく安心してしまう人が出てしまうのではないか。それだけは絶対に避けたい。だから『seem』のアプリ画面には、病院での検査を促すメッセージが何度も表示されます。あくまでセルフチェックであり、医療機関での検査のかわりとなるものではありません。

 男性も女性と一緒に妊活をスタートする際に、自身の精子の状態を知ることのハードルを下げ、男性不妊症の啓発につながればと思っています」

 永尾教授は精子検査キットの手軽さに期待を寄せている。

「自宅で確認できることによって、夫婦間のコミュニケーションのきっかけになったり、病院を受診することにもつながるんじゃないでしょうか」

 さらに、こうつけ加えた。

「結婚前に判別がつくこともメリットのひとつです。ただ病院で検査するものとは、精度も検査項目も違いますからあくまで病院に行くきっかけとしてとらえてほしい」

 男性不妊の原因は精子をつくる機能が働かない特発性造精機能障がい(原因不明)が全体の約4割。2番目に多いのは、血液が精巣の静脈に流れ込み静脈瘤ができ「簡単にいえば精子の質が劣化する」(永尾教授)精索静脈瘤で全体の約3割を占める。3番目はEDや射精障がいで約2割。

「『2人目不妊』の原因は、精索静脈瘤がほとんど。手術をすればかなり回復します」

 永尾教授は、早めの手当てを訴える。

 不妊治療経験があるという冒頭の女性は、4歳児の母(48)。3年間、自身の不妊治療を続けた後に夫が精索静脈瘤とわかったという。

「レディースクリニックなどで、夫の精子を検査してもらっていましたけど、夫を診察することはありませんでした。でも泌尿器科で検査をしたら、その日に精索静脈瘤が見つかったのです」

 最後に、こう話した。

「婦人科では男性を診なくても、精液があれば顕微授精までできるため、男性の不妊に気づきにくいところも。男性不妊症は治療で改善するものが多い。女性の負担を減らすためにも、男性は泌尿器科を受診してほしいです」(永尾教授)