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 運転中に発病し事故を起こしてしまうなんて、大病を患っていない限りまずないだろう……。そう思っている人こそ要注意。

 脳血管疾患や心疾患に続き、めまいや腹痛、失神などの比較的日常的な症状も事故への強力な危険因子だった。リスクを回避するためには?

「運転中の体調変化による事故は、これまでも何度も起きています。運転中の発病や突然死は、誰もがありうるのです。原因が『てんかん』や『睡眠時無呼吸症候群』などと報道されると、“私は関係ないし大丈夫”と思ってしまう。しかし、腹痛や下痢、めまいなどにも、大きな事故につながるリスクは潜んでいるのです」

 運転中の突然死問題に詳しい滋賀医科大学の一杉正仁教授は、2月25日に大阪市内で起きた交通事故を、このように受け止める。

 ハザードランプを点滅させたままの乗用車が赤信号の交差点に突っ込み、そのまま歩道に乗り上げ、10人を次々にはねた大阪・梅田の事故(死者3人、本人含む)。何の罪もない歩行者の命が奪われた。

 男性運転手の死因は大動脈解離による「心タンポナーデ」。聞きなれない病名だった。

「心臓から血液を送る太さ3センチほどの血管が裂けて流れ出した血液が、心臓を包む膜の隙間にたまり心臓を押しつぶし、心臓が血液を送り出せなくなる致命的な病気です」(一杉教授)

 ちなみに、大動脈解離は高齢者や高血圧の人、喫煙者などが発症しやすいという。

 国内外の調査によると、交通事故の1割程度が運転者の体調変化によって生じている。一杉教授は以前、職業運転者(バス、トラック、タクシー、ハイヤー運転手)が業務中に病気を発症し、運転が継続できなくなった原因を分析した。

 最も多かった原因は、脳梗塞やくも膜下出血など脳へのダメージ、次に不整脈や心筋梗塞など心臓へのダメージ。

「注目したいのは、その次に多かった失神、腹痛や下痢などの消化器系疾患、めまい、片頭痛などの原因。比較的日常的といえる、誰にでも起こりうる疾患も、正常運転を妨げる危険因子となるのです」(一杉教授)

 前記の職業運転者の場合、発症直後に事故につながったケースが64・7%もあったという。プロドライバーでも立て直すことができない突発的な体調異変。教授は原因のひとつとして血圧上昇を指摘。

「車の運転は複雑な認知、判断、運動能力を必要とし、想像以上に集中力を必要とします。緊張状態が続き、ストレスがたまっていくため心身ともに負担がかかり、血圧は10~20近くも上がるんです」(一杉教授)

 定期検診で脳や心臓に異常なしと診断されたとしても、高血圧であれば、それは体内に爆弾を抱えているに等しい。

「放置すると脳や心臓の疾患などを発症する大きな要因になります。高血圧を治療し理想的なレベルに保つことは、病気の発症予防に最も重要」(一杉教授)

 国民の約30%が高血圧といわれているが、怖いのは自覚症状に乏しい点だという。

「例えば血圧が190近くになっても、どこかがとても痛いわけではありません。検査しないと病気とわからないこともしばしばで、危険因子を持っていても自分は健康だと思い込んでいる人がたくさんいる。この点が最も危険です」(一杉教授)