今までより”これから”のことを

 2016年5月にはオカリナ教室を開始。この楽器が結びつける縁の広がりに元気づけられる日々だ。

「生きる力を“音”で伝えたい」と語る 撮影/竹内摩耶
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「そもそもオカリナを吹き始めたきっかけは、以前、知人の演奏家がオカリナで演奏した『もののけ姫』に聴き惚れてしまったこと。それで私も吹いてみると、すごく気持ちいいし、楽しかったんです。

 そしてあるとき、講演で1曲だけオカリナを吹いてみたら、届いた感想が『オカリナがよかった』ばかり。それならとオカリナ演奏の割合がどんどん増えていきました。

 オカリナは一般的に素朴なイメージが強いのですが、とても奥深い楽器。習いたいと言ってくれる人も多く、教室を始めることにしたのです」

 その間、かつて自分が人から与えてもらったチャンスを、今度は人へと引き継ぐかのような出来事もあった。前出の喜多氏が明かす。

「実は私、ある脳の病気でフルートが吹けなくなってしまい、しばらく引きこもっていたんです。でも、あるとき先輩が“オカリナだったら吹ける?”って、15年ぶりに人前で演奏するチャンスをくれて。その流れでオカリナ教室も手伝わせてもらうことになりました」

 半年ほどで100人もの生徒が集まり、あっという間に大阪と神戸の7教室にまで広がった。オカリナでつながる輪をもっと広げられたらと、今年9月には、オンラインレッスンも始めたところだ。

 現在、さくらいは51歳。最近、少し心境の変化があったようだ。

「以前は、あくせくギラギラと夢を追っていた気がしますが、今は原点回帰といったらいいのか、リコーダーを吹いたら親や友達が喜んでくれて、うれしいな、と思っていたころに戻った感じ。自分の音を聴いてもらうことが幸せで、その音が誰かの心に届いたら、さらに幸せ……、という思いです。講演も、これまでは病気の体験談が主でしたが、“今まで”より“これから”のこと、明日をちょっとだけ、より幸せに生きられるような話を、音にのせて届けていきたいですね」

 難病とともにありながら、今のさくらいだから出せる音、語れる言葉、「生きること」を伝える活動は続く。

今年4月に上梓された著書『あしたを生きることば』(SBクリエイティブ社刊)。「私がもらった生きる支えになる言葉たちが、再び誰かの人生に寄り添えたらうれしい」※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページに移動します

取材・文/福島結実子

ふくしま・ゆみこ 編集者、ブックライター。健康実用、政治経済、ビジネス、自己啓発など幅広いジャンルの書籍に携わる。『がんばらない成長論』(心屋仁之助・学研)『太らない間食』(足立香代子・文響社)など。