さらに、三段目という下から三番目の番付の、小兵力士・炎鵬(えんほう)にも目が釘付けになった。大相撲中継の解説でおなじみの元横綱・北の富士さんをして「かっこいいね。アクション・スターになれるね」と言わしめるイケメンで、ノーブルな空気をまとう23歳。

三段目の炎鵬は入門してから負けなし!(撮影/和田靜香)
三段目の炎鵬は入門してから負けなし!(撮影/和田靜香)
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 実は横綱・白鵬の内弟子だ。彼は相撲界に入門してから負け知らずで、通算21勝目をかけた13日目、私はとるものもとりあえず早朝の総武線に飛び乗り、当日券を買って国技館へ行った。初めて生で見た炎鵬は強い強い! 転げながらも勝ってしまった。

 しかもすぐに立ち上がった彼からは独特のオーラが放たれ、近寄りがたい雰囲気さえある。結局彼は千秋楽の優勝決定戦を制し、三段目の優勝を果たした。これで序の口、序二段、三段目と入門してからすべて優勝。すごい人が出てきた。

やっぱり私は大相撲が大好きだ!

 さて、その千秋楽。「僕は明るい性格だから相撲界を盛り上げようと思ったんです!」なんて優勝インタビューで答えた、23歳のイケメン阿炎(あび)が、4人による優勝決定戦を制して十両優勝を遂げ、場内をすっかり熱くしてくれた。

 スー女たちに「阿炎ちゃん」と呼ばれる彼、相撲部屋の自分の布団からツイキャスなんてしちゃうお茶目な子だけど、実に強くなった。図太い心臓で勝ちに行くことに躊躇なく、リオ五輪でメダルを獲った若いアスリートたちに相通じるものを感じた。

 そして、幕内の優勝をかけた結びの一番は11勝3敗の大阪出身の大関・豪栄道と、10勝3敗のモンゴル出身の横綱・日馬富士。その差はわずか1勝。結果はご存知の通り、日馬富士が勝ち、さらには優勝決定戦も圧倒的な相撲で日馬富士が制して、優勝!

 あの3連敗した日、もう引退か? と誰もの胸によぎったのに、奇跡のような優勝だ。33歳。すごい! 本当にすごい!

 私は「ありがとう、ありがとう!」と涙を流した。「もう相撲は終わりかも」などと一瞬でも思ってしまったけど、そんなことはなかった! 終わりどころか、さらに輝かせてくれた。相撲を信じていいんだ! と力強く思えた。何かを信じられるのは、なんて嬉しいんだろう。

 そして勝ち抜いた男の言葉はすべてが重かった。日馬富士の優勝インタビューは、その一語一語が響いた。

「今日の一番に命をかけて、全身全霊で臨もうと思って相撲を取りました」

「ただ前を見て明日を信じて、一日一日を積み重ねて相撲を取りました」

「結果は後からついてくると、先のことは考えずに集中して相撲を取りました」

 そうだ! 一日一番! 相撲は今日という日の一番を生きる。だから私は相撲が好きなんじゃないか! と大切なことを思い出させてくれた。

 どうしても今日をこじらせ、明日に希望をなくし、鬱々と下を向いてしまいがちな自分。そんな自分に今日を生きて前へ足を出せと言ってくれるのが相撲だ。私には相撲がある。相撲を信じる。それは今日を生きること。明日を、自分を信じること。

 大切な、素晴らしいことを思い出させてくれ、今日を生きる勇気をくれた日馬富士、そして大相撲、15日間、ありがとう! 私はやっぱり相撲が大好きだ!


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。