心身充実。5度目の大舞台で金をとる

 その一方で、スイス時代に学んだ「オンとオフの使い分け」は忘れていない。追い込む時は追い込むが、それ以外の時間も大事にしている。2015年春から2年間通ったアナウンススクールはその一例だ。

「人には恵まれている」と周囲への感謝を語る竹内。人間としての幅も広がり心身需実
「人には恵まれている」と周囲への感謝を語る竹内。人間としての幅も広がり心身需実
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「1度はキャスターとして五輪に行きたい」という竹内の夢を聞きつけたNHKから2017年7月の『サンデースポーツ』のマンスリーキャスターにも抜擢された。同じソチ銀メダリストの友人・渡部暁斗(北野建設)をインタビューするなど、スポーツを異なる角度から見る機会にも恵まれ、「取材する側の苦労がわかりました」と、しみじみ話していた。

 加えて、前述のブラックパールのビジネス拡大にも奔走中だ。「いずれ日本の若手選手と海外トップ選手を一緒に練習させる環境を作ったりして、選手のレベルアップ、スノーボードの地位向上に役立ちたい」という思いもあって、利益より貢献第一で動いている。

「智香はスノーボードをもっと多くの人に知らしめ、環境を底上げしたいという責任感が誰よりも強い。その気持ちはよくわかります」と先輩の市井さんも強調していた。

 スノーボードでもそれ以外の時もつねに自分からアクションを起こし、エネルギッシュに前へ前へと突き進むのが、彼女の絶対的な強み。そこに人間的な幅も加わり、平昌には心身充実の状態で臨めるだろう。

 12月からワールドカップがスタート。いよいよ五輪本番へのカウントダウンに入る。竹内にとって次は5度目の舞台となるが、兄・崇さんは「気負わずに挑んでほしい」とエールを送る。

「ソチの時は地元のパブリックビューイングで応援しましたけど、あの雰囲気は格別でした。智香が輝いている姿を見せてくれるのが僕ら家族にとっての喜びであり、楽しみ。平昌には両親も応援に行くと思いますけど、楽しむことを忘れずに滑ってほしいですね」

 兄の言う「楽しさ」の先に、長年追い求めてきた金メダルがあれば最高のシナリオだ。

 毎週、彼女の状態をチェックしている大岡氏は「竹内さんを見ていると金メダルをとるだろうなという気持ちにさせられる」と言う。

「彼女が“勝てる”と確信しているから、サポートする僕らもそこしか考えていません。そうやって周りを自然と本気にさせるところが彼女のすごさ。次こそは必ずやってくれるでしょう」と語気を強めた。

 彼らを筆頭に日本中の期待を背負うことになる竹内。間もなく34歳になろうとしている世界トップのスノーボーダーにはそれを大きな力に変えられる器がある。隣国での五輪というアドバンテージを最大限生かし、圧巻の滑りをわれわれの目に焼きつけてくれるはずだ。

 念ずれば夢は叶う……。

 彼女にはその言葉がよく似合う。


取材・文/元川悦子 撮影/齋藤周造

元川悦子(もとかわえつこ)◎1967年、長野県松本市生まれ。サッカーを中心としたスポーツ取材をおもに手がけており、ワールドカップは’94年アメリカ大会から’14年ブラジル大会まで6回連続で現地取材。著書に『黄金世代』(スキージャーナル社)、『僕らがサッカーボーイズだった頃1・2』(カンゼン)、『勝利の街に響け凱歌、松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか。