「奥さんを泣かせる立場になるのは嫌――」、真一と付き合う前に、何回も、何度も話し合った。それでも、真一は自分を救ってくれたかけがえのない人であることには変わりはなかった。

 その思いだけは、何があっても揺るぎようがなかった。

「世間が不倫はダメだと叩きたいなら、叩けばいいって思う。理解できない人にはわかってもらわなくてもいい。でも、私、本当の愛を見つけたんだもの」

心が通じ合っていればそれでいい

 だから、真一の妻に対しても、特に嫉妬心はない。

今日家族でごはんを食べに行ったよとか、かみさんの買い物に付き合ってやったとかそういう話を聞いたら、普通は嫌なんだろうけど、今は嫌じゃなくなってきたの。真ちゃんが私のことを大事にしてくれてるのを、私はわかってるから。子供が大事というのも理解できるし。ただ最終的に、ずっと一緒にいようねと思ってるけど、もし、ダメならそれはしょうがないと思ってる。絶対こうでなきゃいけないというのはないの」

 由美子は、戸籍にもこだわらない。年を取ってきたら、籍が入っていないのは確かに不利になるかもしれないが、心が通じ合っていればそれでいい、そう考えているからだ。

 真一はいつか離婚すると言っているが、それも、口約束だ。

「それって確かなものではないですよね」――そう指摘すると、

「それはそう。私が大事なら家庭も何も捨てて一緒になればいいじゃんって思うかもしれない。でも、一緒にいたかったらいればいいし、いたくなくなったら離れればいいって思うんだよね。そこは自由でいいんじゃない?

 このようなスタンスを取ることができるのは、やはり由美子が経済力を持っているのが大きいだろう。かつての自分は、今の不倫相手の妻と同じく、経済力がないために、どんなにDVや女遊びが激しくて精神的につらくても、しがみつかなくてはいけない存在だったのだ。

「それを考えると、私にとって結婚生活って奴隷みたいだった。専業主婦の真ちゃんの奥さんが、夫にしがみつこうとする気持ちも分かる。それは過去の私。だから無理に引きはがそうとは全く思ってないよね。相手に依存しないためには、やっぱり経済的な部分が大きいんだと思うよ。経済的に自分が自立できてないと、相手にしがみついてなきゃいけなくなるから

 まるで、かつての自分のような真一の妻。その存在ですら思いやることができるのは、まさしく由美子が結婚生活の地獄を味わってきたからに他ならない。そして、その地獄から抜けられたのも、経済的な自立があったからだった。

 由美子は、真一の妻に対して、何も感じることはないという。ただ、真一が大切にしているものは大切にしたい。心からそう思っているだけだ。

 由美子は真一と年に数回は車を飛ばして近県まで行き、お泊りデートをする。長野県や静岡県などの観光地を散策するのだ。そして、ラブホのゴージャスなベッドで、何度も愛し合ってから帰る――。そんなささやかな逢瀬の幸せを由美子はかみしめている。

 真一の家族も今のところ、特に不審に思ってはいないという。