コンセプトは「漆を持ち歩く」

「バイヤーとして働いていたころは、CDが飛ぶように売れていた時代。目新しいものがどんどん登場して、古いものはすぐ押し出される。これだけめまぐるしく移り変わる世の中で、いつまでも同じことをしていたらダメだと実感しました。加えて、東京は魅力的な街でしたが、自分ひとりが欠けても社会は回るし、“何者にもなれていない”という感覚が強かったんです」

ワンプレートとともに、スープカップも開発 撮影/Rui Izuchi

 福井に戻り、漆塗りの修業を始めた直東さん。心に決めていたのは、「自分が好きなモノを作ろう。そうでなければ、人にも好きになってもらえない」ということだった。

 直東さんは、漆塗りのiPhoneケース、カードケース、タンブラーなど、従来の伝統工芸品からはかけ離れた商品を次々に発案、製作していく。

「漆はどうしても“ちゃんとした場所で使うモノ”というイメージが強いですよね。せっかく漆塗りの器を持っていても、使わずにしまっておく人が多い。だけど本当は、ジーパンの色落ちみたいに、使うたび経年変化して自分だけの味が出てくるところが魅力なんです。少しずつ色が薄くなって下の木目が見えてきたり、人の手で育てられていく。だから、“漆を持ち歩く”というコンセプトを掲げ、毎日使えるモノを考えました」

 土直漆器に在籍する漆器職人は12名。近々、また新たに2人の若手が加入する。

仕上げの「上漆」。季節や天候で変化する温度、湿度を見極めながら均一な商品を作る必要がある 撮影/Rui Izuchi

「うちは“見て盗め”なんて言いません。基本的に手取り足取り技術を伝えますし、若い人の意見もおもしろいと思ったらどんどん取り入れます。例えば若手の女性職人が立ち上げたブランド『ONE』は、働く女性を応援したいというコンセプト。“朝食がワンプレートで完結すれば、洗いものが楽で助かります”と言われ“なるほどー”って(笑)

 始めて9年目。現在は製品の出来を左右する仕上げの工程「上塗」を任されている佐々木大輔さんは、以前、アパレル業界に身を置いていた。

「前職では、なかなかやりがいを感じられませんでした。だけどこの仕事は、成果がダイレクトに見えますし、集中しすぎて、1日1日が溶けるように過ぎていきます」

 自分のアイデアが採用される、仕上げた商品を気に入って購入する誰かがいる。ここに、“何者にもなれていない”人はひとりもいない。