情報隠しと闘う母親の思い

 東京でも、いじめ問題の隠蔽やごまかし、時間稼ぎが明るみに出た。

 2015年9月27日、東京都立小山台高校1年の男子生徒、境章雄くん(当時16=仮名)がJR中央線・大月駅(山梨県)で列車に飛び込んで死亡した。

 都の教育委員会は「いじめ防止対策推進法」に基づき調査部会(部会長、坂田仰・日本女子大教授)を設置。報告書を提出した。

 しかし、母親・啓子さん(仮名)はこれに納得せず、都知事に再調査を求めている。

亡くなった章雄くんの机は残されたまま。その横に立つ母親の啓子さん
亡くなった章雄くんの机は残されたまま。その横に立つ母親の啓子さん
すべての写真を見る

 当初、学校の調査ではいじめは確認されなかった。しかし、啓子さんは、章雄くんのスマートフォンのデータの一部を復元。いじめの疑いがある記述を見つけた。そのため、いじめの有無、自殺との因果関係に対する調査を求めているのだ。

 調査部会はおよそ1年8か月にわたり、計80回以上の会議を重ね、'17年9月、最終報告書を作成した。

 調査では、前述した川口市と同様、いじめの定義が問題となった。調査部会は次のように指摘している。

《学校、教職員がその端緒として活用する定義としては有用であるとしても、少なくとも、いじめ防止対策推進法に基づき重大事態の調査が行われるに当たっては、これをいじめと捉えることは広範にすぎる》

 これはつまり、法の定義は、生徒指導では役立つが、調査を前提にした場合は広すぎるとして、下表にまとめた「社会通念上のいじめ」を前提に調査することにしたものだ。法による定義は無視された。

 そのうえで、《収集できた資料の範囲内で判断する限り、いじめがあったと判断することはきわめて困難》と結論づけていた。

 坂田部会長は会見で、「調査結果について自信を持っています」と話す一方で、警察とは違い調査権限がないことの難しさについて触れ、「調査の限界」という言葉を繰り返した。


いじめの定義って?

<法律の定義によるいじめ

 同じ学校に通うなど関係のある児童・生徒同士の間で、一方の児童・生徒へ心理的、または物理的な影響を与える行為で、対象になった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。継続的ではない行為やインターネットを通じて行われたものを含む。加害の意図は関係しない。

<社会通念上のいじめ

 故意で行った言動、つまり、いじめの加害を意図しているものかどうかで判断される。過去の文科省の定義では、「力の差」や「継続性」、「深刻さ」が入っていたこともある。