遺族代理人(当時)は、「いじめが学級や学校といった集団の中、日々の積み重ねで構築され、孤独感や孤立感といった感情を日に日に蓄積させるものという視点が欠けています」

 と話し、文科省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に基づき、都知事に再調査の要望を出した。

「誰ひとり自宅には来ませんでした」

孤軍奮闘しながらも啓子さんが自らかき集めた、いじめ問題に関する資料
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 また会見では、調査部会事務局と遺族との信頼関係が崩れたことも明らかに。担当者が怒鳴ったのだ。

「1回でもあってはならないことですが、遺族に対して感情が高ぶったところがあったのは事実」(担当者)

 ただ、啓子さんは、この担当者だけでなく調査部会についても不信感を持つ。

「調査部会のメンバーは“公正・中立”を理由に、息子の前で手を合わせることもしていませんし、誰ひとり、自宅には来ませんでした」(啓子さん)

 報告書の公表後も、学校対応の不備について、学校や都教委から説明も謝罪もない。

 啓子さんはこんな疑念を抱く。

「アンケート原本、職員会議録など、もとになった資料は報告書がまとまってもどういうわけか、開示されません」

 その後、知事部局の青少年・治安対策本部が'17年11月27日、再調査を検討する検証チームを設置した(座長・近藤文子弁護士)。ほかの自治体では、首長が設置の有無を判断することが多い。再調査のための検証チームを設置することは異例だ。

 以来、20回にわたり話し合いが重ねられ、検証チームは'18年7月19日、調査時点で同意を得られなかった2点について、再調査の必要性をようやく認めた。ひとつは、スマートフォンの内部データの解析。もうひとつは、調査開始1年後に現れた新証人への聞き取りをすることだ。

 報告書では、スマホの解析について「遺族などの同意が得られなかった」となっているが、啓子さんは「都教委ではなく、こちらが選んだ業者で解析しました。業者が説明、質疑応答をしています、協力はしていました」と話す。

 ただ、再調査そのものについては歓迎している。

「最終報告書が不十分であることが示されたことは、よかったです」

 かけがえのない息子の命が失われてから3年。真相究明を遠ざける言葉遊びや情報隠しで、遺族は振り回され続ける。


取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト。教育問題をはじめ自殺いじめなど若者の生きづらさを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。近著に『命を救えなかった』(第三書館)