もうひとつ補足しておくと、オタクの人は、興味がなくてもケーキに関するおしゃべりにそれなりに参加できますが、自閉スペクトラム症の特性がある人は、もしもケーキに興味がない場合、そもそもおしゃべりに積極的に参加しようとはしません。彼ら彼女らにとって会話はあくまでも情報交換のためであり、時間つぶしや交流のために会話をしようという意欲は、基本的には低いのです。

 いっぽう、自閉スペクトラム症の人は、対人関係のために大好きなことの優先順位を下げることには抵抗があるのです(それが「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という特性につながります)。

 この「対人関係」に着目すると、自閉スペクトラム症の人とオタク(個性的な人)との微妙な違いが浮きぼりになっていきます。

発達障害と個性との違いに、明確な境界線はない

 しかし、発達障害と個性との違いは、まさに「微妙な違い」です。

 なぜなら、対人関係やこだわりの調整は「できる」「できない」の2つにはっきりと分けられるものではなく、あいまいなものだからです。

 調整できる場面が多ければ「個性的な人」や「オタク」に近く、調整が難しいと自閉スペクトラム症の特徴に近いというふうに考えられます。

 発達障害と個性、自閉スペクトラム症とオタクに明確な違いなく、「個性」や「オタク」、発達障害は地続きのもので境界線はないといえます。

なにも話さずに見ているのも「好き」ということ

 自閉スペクトラム症の特性が強い人の交流スタイルという点で、とある女の子のエピソードを紹介しましょう。

 彼女が家にいて遊んでいたときのこと。手のあいた母親がそばにいって、いつもより積極的に話しかけたりスキンシップをとったりしながらいっしょに遊んでいると、 彼女は母親に向かってこう言ったそうです。

「お母さん、なにも話さないで見ていてくれるのも『好き』っていうことなんだよ」
 
 彼女の理想は、母親にそばにいてもらい、やや並行遊びのような感じで淡々と過ごすことであり、それが彼女にとっての「お母さんといっしょに楽しく遊ぶ」という感覚なのでしょう。

 ほかの子が好む母子のスキンシップとは異なりますが、それが彼女にとっては心地よいやり方なのです。