理不尽に怒鳴り散らすオジサンの正体

 そもそも、ドラマの中の船越はなぜこんなに怒りのエネルギー値が高いのか。その背景を見ていくと、どうやら定年退職が近づいているらしいのだ。

 私を怒鳴ったオジサンもそうだった。現役を離れる前に、ひと花咲かせたい・手柄を立てたい・周囲から定年を惜しまれる存在になりたい……そんな焦りと卑しい心根が透けて見えてくるではないか。

 また、上からの締め付けもあるようだ。捜査一課長の篠井英介からは検挙数を要求され、嫌みったらしく小馬鹿にされるも、反論できずにぐっと飲み込む。

 上には逆らわない代わりに、自分より下とみなした者には傍若無人かつ居丈高に振る舞う……うわ、これ、典型的な老害予備軍だな。こんなオジサンが職場にいたら、みんな過呼吸になっちゃう。

 さらに肝心なのは、船越が妻子に逃げられたという点である。船越は「すべてを犠牲にしてきた」と自己憐憫(れんびん)し、仕事の鬼と化す自分を正当化している。ちょっと待って。ここでオンナアラート鳴らします。

 妻子が逃げたのは、家庭を顧みない熱血刑事だったからではなく、「俺の言うことを聞け」という根本的な体質に辟易したからでは? 特に、若い人や女性に対して横柄で横暴な姿から想像するに、妻に「誰にメシ食わせてもらってると思ってるんだ」くらいなことを言ってそうだし。

 要するに、「俺様体質」なのだ。俺の話を聞け、俺の言うことを聞け、俺をたてろ、俺を敬え。船越のセリフを追っていくと、とにかく俺しか見えてこない。言葉使いが乱暴なことが問題ではなくて、俺様最優先で人を従わせようとするマインドが問題なのだ。

 昨年立て続けに起きたスポーツ界のパワハラ事件を彷彿とさせるし、世界各国の政界にもこの手のオジサンがたくさんいる。コレ、全世界的な流行りなのか? 月9は流行を取り入れたってことか?

 もちろん、主役の錦戸はこんなオジサンに毅然と立ち向かう。「刑事のカン」だの「オレのカン」だのと、経験則だけで決めつける船越に対して、はっきりと「気持ち悪い」と反論する。

 ま、そこは主役に花を持たせる演出なのだけれど。でも、オジサンの理不尽な言動に対して、若手がモノを申す爽快感とカタルシスは確実にあったよね。