ピエール瀧
 いまだに収束する気配がないピエール瀧容疑者の逮捕報道。出演作を多数抱えていただけに、関係各所への打撃も大きい──。悲劇に至った“薬物問題”について放送作家でNSC東京校の講師も務める野々村友紀子が言いたいコトとは?

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 昨日いただいた、『ピエール・エルメ・パリ』のマカロンを食べながら、この原稿を執筆しております。さすがマカロン1個300円くらいしやがるピエール・エルメ。味に奥行きがありますわぁ。でも1個300円は高すぎへんかしら! 子どもに2個食べられて泣きそうになったわ。子どものうちはこんな複雑な味のお菓子食べんでええねん! どうせ味わからんねんから駄菓子300円分買って食べとけー! お菓子といえばピエール・マルコリーニのチョコレートも美味しいですよね、私、大好きなんです。あ、ピエール・ルドンもチョコレートが美味しくて箱が素敵ですよね。そうです、今回はピエール瀧容疑者のことについて書きたいと思います。

 こんなどうでもいいクッションを入れないと書き出せないほど、今回の逮捕は私の中ではちょっとショックでした。彼の演技もパフォーマンスも好きでした。もちろんファンの方々からしたら「好き」の度合いもショックの大きさも比べものになりませんが、あの、アーティストとしてのカッコよさ、役者としての独特の雰囲気と存在感、バラエティーなどで見せる明るさと面白さに、時折ワクワクしたり、圧倒されていたひとりではありました。これだけ持っている人って芸能界広しといえど、なかなかいないんですよね。しかも、そのすべてのレベルが突き抜けている。彼を好きな人は、結構多かったのではないでしょうか。

「どっちが先やねん!」

 仕事も本当に幅広く、朝ドラに大河ドラマにディズニー映画にバラエティー、そして地元での人気長寿番組にラジオにCM…… 完璧やないか! 芸能人ならのどから手どころかダイソンの掃除機出して全部吸い込みたいくらい最高の仕事、全部持ってるやないか! 

 しかも日本アカデミー賞優秀助演男優賞やブルーリボン賞助演男優賞をはじめとする数々の受賞歴て! 冠番組ゴールデン昇格目前て! なんじゃー! なんでじゃー!! くれー! うちの旦那に全部くれー!

 しかし、この素晴らしい仕事ぶりや今までの華々しい功績を、世間の人が改めて知るきっかけが「逮捕」っていうのが悲しい話ですね。時折見せる優しい笑顔や謙虚な姿勢も好感が持てたし、さぞかしスタッフや周囲の人の期待や信頼も大きかったのではないでしょうか。

 法を犯した人をここまで褒めるのもどうかとは思いますが、とにかく芸能界の中でも長年にわたり重宝され、大きな成功を収めていた、わずかな人間のひとりだったことは事実。下っ端芸能人からしたら羨望しかない! それなのに、なぜ!? なぜだ! なぜクスリなんかに手を出した! と、みんな最初に報道を知ったときは、「なんであんな成功してる人が?」と驚いたと思います。が、20代のころから薬物を使用していた事実や使用頻度などを知るうちに、「ちょっと待てよ、そうなると、どっちが先やねん!」となるのです。

「成功したからクスリをやった、のではなく、そもそも、あの成功はクスリによって支えられていたのか?」今までのアレもコレも全部、クスリのおかげやったん? あの、静かに怖い、しびれる最高の演技も? あのセクシーで華麗なステップも? あのハイテンションなしゃべりも? あの華々しい功績、素晴らしい作品の数々、人柄、そのすべての見方が一気に変わってしまうのです。それも、クスリの嫌なところですね。

 周りに多大な迷惑をかけることももちろん嫌ですが、どんな名曲もどんな熱演もどんな面白い話も「クスリのおかげ」。そう思われるのはなんて悲しいのでしょう。

「作品に罪があるのか」と日々議論されまくっていますが、私は作る側の人間なので、もちろん「ない」と言いたい。薬物を使用した人の過去の作品を店頭からとりあえず消すことが、問題の根本の解決になるとは思えない。

 昔の海外アーティストなんか、(多分)やりまくって曲作りまくって、やりまくって歌いまくってる人もいる(だろう)から、そんなん言い出したら店頭から世界中の名曲がごっそり消えてしまう(んじゃないか)という気もします。それはそれで嫌だ。