日本文化を好きになるほど母国も好きになった

作業中のドリアーノさん。琵琶の本体はクワの木で中をくり抜いて作られる
作業中のドリアーノさん。琵琶の本体はクワの木で中をくり抜いて作られる
【写真】作業中のドリアーノさんの表情は真剣そのもの

 苦労しながらも5年間、琵琶職人として修業に専念した。そして'81 年、イタリア語教室を併設する『イタリア会館・福岡』を設立する。

「生活して日本文化が好きになればなるほど、イタリアの文化も振り返り、日本に来る以前より好きになっていった。そこで料理やファッションなどのイメージとは異なる側面を紹介できるように、イタリア会館を設立したんです」

 イタリア会館では、語学教室をはじめ、映画、美術、音楽などのイタリア文化をさまざまな角度から紹介している。会館ではイタリア人のスタッフ5人が働き、ドリアーノさんの娘さんもいる。

 ドリアーノさんは現在、火・水・木にイタリア会館へ出勤し、それ以外は自宅の工房で琵琶の修復に専念している。

 琵琶の修復は琵琶奏者だけでなく、博物館などからも依頼があるそうだ。

修復された筑前琵琶。琵琶には薩摩琵琶、肥後琵琶などもある
修復された筑前琵琶。琵琶には薩摩琵琶、肥後琵琶などもある

僕は琵琶で商売はしたくなかったんです。それに琵琶の修復には時間がかかる。“修復”と“修理”とは、ずいぶん違うんです。修理は、ただ音が出るようになればいいのですが、修復は“もとに戻す”のが目的です。作った人の意図どおりに再現するということですね。

 例えば琵琶の前面に傷がついた場合、修理だったらカンナで削ればいい。でも、それだと木の厚みが変わるので音色も違ってきます。修復では琵琶に濡れた布をのせて、そこに焼きごてを当てて大量の蒸気を木に浸透させ、少しずつへこみをなくしていく。そんな気の遠くなる作業ですから商売にはなりません」

 商売として成立しないゆえに弟子はいない。7~8世紀には日本へ伝来していたと言われる琵琶。失われつつある伝統の技術を、ひとりのイタリア人がいまに伝えてくれている。