無年金の不安から脱却!

 兄が営むレストランを38年間にわたり手伝った後、行政機関内の食堂で8年働いた大野千代子さん。65歳のとき、その食堂が閉店となって職探しを始めた。現在は74歳の夫と持ち家に2人暮らしだが、兄のすすめで年金には加入しなかったため、無年金だ。

「20代で調理師免許を取って、食堂では調理補助として働いていました。年金もないし、まだまだ働けると感じて、ハローワークで同じ職種に応募しました。でも、年齢を理由に断られてしまったんです」

 65歳を越えた就職が難しいと実感していたところ、前出・ハローワークで東京しごとセンターのインターンシップ制度『しごとチャレンジ65』を紹介された。

「やってみようと登録して、相談員の方にすすめられた中から最初に訪れたのが、今年3月からお世話になっているこちらの会社です」

 保育サービスを提供する『ジョイサポ』で、新規開設する保育園の調理補助のパートとして採用された。現在、保育園はオープン前のため、関連の託児施設で“保育補助”として働いている。

「いままで経験のない保育のお仕事ですが、新しいことに挑戦できるのはうれしい。なにより子どもたちが可愛くて」(大野さん)

 ジョイサポの代表取締役・山田加代子さんは、職場体験にやってきた大野さんが、見学の際に子どもたちに囲まれる様子を見て「この方は大丈夫だ」と確信。見学後に面接をして即、採用を決めたそうだ。

「年齢だけ聞くと、仕事をしてもらうのも気の毒かと思っていましたが、実際にお会いすると、とてもお元気。若いスタッフとも身構えず仲よく接してくれ、安心です」(山田さん)

 実は、大野さんは現在、夫の介護と仕事とを両立している。在宅ケアとはいえ、それほど手がかからないので自身の息抜きを兼ねて働くことは夫婦同意のうえ。だが、家を出るのは夫の昼食をすませてから、というのが希望だった。

「そんな事情も酌んでもらい、勤務は週5日、14~20時。主人はもともと夕食が遅いので、帰ってから作って食べています」

 と大野さん。いまは若いスタッフに教わりつつ、パソコン業務にも挑戦中。

「パソコンに触ったこともなかったので、教室に通おうと思っていました。なのに、こちらでは仕事として教えていただける。とてもありがたいです。定年はないとのことで、身体が動くかぎりは働いていたい」

 と、顔をほころばせる。

 山田さんが言う。

「多くのシニアの方は人生経験を積んでこられて働き方にゆとりがあり、人間的にも穏やか。保育の現場は今、人手不足。そんななか、シニアの方々は理想の人材だと感じています」

 “働けるか不安。週1日、3時間勤務で”と言っていた仕事未経験のシニアが、数か月後にはめきめきと頭角を現し、現在では週5勤務の主戦力に育った例もあるとか。

「長年、専業主婦だった方は働くことに尻込みしがち。でも、化ける可能性はありますよ!」(山田さん)