元男性のトランスジェンダー、12階から飛び降りたことがあるモカさん
元男性のトランスジェンダー、12階から飛び降りたことがあるモカさん
【写真】生きることを選んだモカさんの素顔

「痛い、痛い」と車のボンネットの上で叫び、意識が戻ったのが病院のベッドの上。腕、背中、胸の骨が折れる大ケガを負い、やがて死をあきらめる。自殺未遂後、モカさんの思考に変化が見られるようになった。“世界の残酷さ”を受け入れたのだろうか。

受け入れたわけではないですが、大人になった部分もあるのかもしれない。純粋な水に不純物が入っているような、グレーな人間になっています。だからこそ生きられています。死んじゃっても、生きていてもいいけれど、どうせ生きているのであれば、人間、楽に幸せであればいいと思ったんです」

 現在は、モカさんは悩みを抱えている人たちの相談に乗っている。

 当初の「お悩み相談」は、新宿二丁目で開いた女装バー『女の子クラブ』で行っていた。しかし、なけなしのお金で店に来た人がいたことをきっかけに、無料でやっていこうと決める。現在では、ホームページからの問い合わせや『みんなと会う会』を開き、約600人の老若男女からのお悩む相談を受けている。

悩みをもつ人と同化する

「メールが届いたら、返信するのではなく、電話をします。(心がけているのは)相手の気持ちが受け入れるようにしています。支離滅裂だったり、たとえ不純なことをしたいと言ったとしても受け入れます。仕返しをしたい、人を殺したい、という声もあるかもしれません。これらに対しても共感し、話し合います。じゃないと話が始まらないですからね。悩みをもつ人と同化するんです」

『12階から飛び降りで一度死んだ私が伝えたいこと』モカ・高野真吾著(光文社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

「就職ができない」「何のために働いているのか」「仕事を続けるのが不安」など仕事に関する相談もあり、特に就活シーズンやゴールデンウイーク明けは多くなっている。そのため、11月には「就労移行支援事業所「UNUN(ウンウン)」を設立する予定になっている。

 最後に、多くの女性が感じる孤立や子育てへの悩みに関するアドバイスを聞いてみた。

悩みというのは、誰かに話せるほうがいいんです。親、友人、ママ友、誰でもいいので話せる人を増やしましょう。そのためには“迷惑かな?”と思わないで話すこと。相談されたり、頼ってもらうことがうれしいと思う人もいるんです。昔のアドレス帳を引っ張り出して、『この人なら!』という人に連絡してみてはどうでしょう。もし子育てに悩んでいるなら、子どもに向き合い、子どもがしたいと思っていることを一緒に、友達になった気分で遊んでみてください」

 12階から飛び降りても死ねなかったモカさんには、今は生きるチカラがあるーー。


渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『命を救えなかった―釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(第三書館)ほか著書多数。