わが国では、年間孤独死3万人、1000万人が孤立状態にある──。

 自著『超孤独死社会 特殊清掃現場をたどる』(毎日新聞出版)の取材において数々の特殊清掃現場を取材したが、特に、高齢者と違って地域による見守りなどがない60代以下の現役世代の孤独死は深刻だ。

 孤独死の8割はセルフネグレクト(自己放任)だと言われている。ゴミ屋敷に代表されるような、自分で自分の首をジワジワと絞めていく、いわば自らを殺すような緩やかな自殺行為だ。

ある40代女性の悲しき孤独死

 今回は、ある40代女性の孤独死の一例をご紹介したい。

 八王子市の一軒家に住む40代の牧田さゆりさん(仮名)は、孤独死して3か月以上も発見されなかった。

 さゆりさんは両親が亡くなった後、実家でひとり暮らし。東方神起の熱狂的なファンで、ポスターが壁の隅々まで飾られていた。部屋のいたるところに、CDやDVDなどの東方神起のグッズがみっちりと詰まった段ボールが山積みになっていた。

 この現場の特殊清掃を手がけた武蔵シンクタンクの塩田卓也氏が、遺品をひとつずつ整理していくと、棚には、ホテルの領収書や新幹線のチケットがバインダーに丁寧に整理されている。どうやら、さゆりさんは、元気なころは熱心に地方公演の遠征をしていたらしい。

 棚にあったアルバムをめくっていくと、ハワイ旅行でピースサインをする無邪気なさゆりさんの姿がそこにはあった。20代後半には、彼氏と思われる男性とともに、満面の笑みを浮かべている。アルバムには、彼氏にあてたラブレターや記念日のカードが挟まれていた。そしてその横には、4冊にもわたる数年分の日記帳がたてかけられていた。

 日記帳によると、さゆりさんに異変が起こったのは、30代の前半だった。肝臓に疾患が見つかり、最愛の彼氏との結婚を断念。そのころから、病弱になり徐々に家に引きこもり、セルフネグレクトに陥っていく。

 さゆりさんの両親はすでに他界していて、兄とも長年疎遠、誰も頼る人はいなかった。そのため、さゆりさんは、たったひとりで病魔に向き合わなくてはならなかった。

 LDKには、かつて思いを寄せた男性を描いたと思われる絵が残されており、さらに男性にプレゼントしようと思ったのか、男物の毛糸のセーターや、マフラーなどの編み物がホコリをかぶっていた。