そんなカリスマ社長が高齢となり、世代交代の時期を迎えた。プロダクションによっては、父から子へ世襲的に社長職の引き継ぎが始まっている。ポストの継承はたやすいが、一代で築いてきた父のカリスマ性を、二世も持ち合わせのは難しい。家族制の激震はそのタイミングで起きている。

 ジャニーズ事務所はジャニー喜多川社長が7月9日に逝去した。すでに姉のメリー藤島副社長の長女、ジュリー藤島副社長が次の社長につくことは既定路線になっているが、ジャニー氏の訃報と付随するように、何人かの退所者が出るのでは、というニュースもすでに飛び出している。つまり、事務所に不満を抱えつつも、ジャニー氏への恩義で退所を踏みとどまっていた者がいたが、彼の逝去で残る理由が無くなるはず、という図式だ。

 吉本興業は、創業家の林家が長らくファミリー経営してきたが、2009年にダウンタウンを育てた大崎洋氏が社長になり、林色は消えていった。さらに今年4月にはダウンタウンのマネジャーだった岡本昭彦氏に社長のポストを引き渡し、自身は会長職に就いた。現状は、ダウンタウンファミリーが会社を牛耳る形になり、岡本社長の家族発言と裏腹に、大半の芸人は「家族からあぶれた」と感じる状況が、今回の騒動を引き起こした要因となったとみてとれる。

'19年7月に“吉本お家騒動”について直撃を受ける加藤浩次
'19年7月に“吉本お家騒動”について直撃を受ける加藤浩次
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 ただし、注意したいのは、極楽とんぼ・加藤浩次の反発など今回の騒動が拡大したのは、吉本ならではの“特異性”もあるということ。あるスポーツ紙記者は声をひそめる。

「タレントが自分の番組やSNSで社長や会社を批判するなんて他の事務所じゃ考えられませんよ。そこはお笑いプロならではの“風通しの良さ”。他の事務所でそんなことはできる雰囲気ではないし、やったら修復できない確執が残るはず」

 要は、吉本以外の事務所では子が親を批判するなんてとんでもない、という家父長的な風潮はまだまだ残っているのである。

 しかし、吉本は、専属エージェント契約という選択枝をつくることで、家族関係を“改革”する道を新たに用意した。まだどういったものかが分からず、発案者の加藤浩次以外に同契約を結んだ芸人はいないようだが、もしエージェント契約を選ぶ大御所が登場したら、雪だるま式に増えるだろう。そして他の事務所でも同様の契約が普及する可能性はある。また、ジャニーズ以外の事務所でも今後カリスマ社長が他界することがきっかけで“お家騒動”が勃発する可能性は大いに予想される。一つの時代の「終わりの始まり」はもう動き出している。