若菜、享年19

 関西に住んでいた若菜(仮名・享年19)も、大量服薬で亡くなったひとりだ。生前の取材で、自殺願望の由来についてこう話していた。

「幼稚園児だったころ、家の近くの公園でひとりで遊んでいたんです。そしたら知らない男性に突然、身体を触られました。まだ幼かったので、その意味はわからなかったのですが、そのときの感覚でなぜか『私はいらない子だ』と感じたことを覚えています」

 性被害が自殺願望に通じることはあるといわれている。私がこれまでしてきた多くの取材の中でも、男女問わず性被害体験によって自殺願望が生まれたと思われる人たちの声を聞いたことがある。若菜もそのひとりといえるだろう。

 ただ、こうした感情が長く続いたわけではないが、中学時代の体験によって、自殺願望が再び芽生えはじめた。それは、クラス内にあったいじめからだった。しかし若菜はいじめられたわけではない。いじめがある状況そのものに嫌気がさしたのだという。

 それはなぜか。

 直接、いじめの被害にあったわけではないが、目の前で暴力的な言動を見ていた。これは、自分が家庭内で虐待をされていないにもかかわらす、別の家族の虐待を目にしてしまう「面前DV」と似ている。さらに、自分がいじめられているわけではないのに、いじめ対象者と同じような被害を感じ取ってしまう「共感性羞恥」という感覚にも似ているのだ。

 若菜は学校に嫌気がさしたとき、決まって相談したのがある授業を担当していた若い教員だった。相談には親身に耳を傾けてくれ、次第に距離が縮まり恋愛関係になっていく。しかし教員が罪悪感を抱いたのか、関係はすぐに終わってしまった。そのとき若菜は「捨てられた」と感じ、幼稚園時代、痴漢に身体を触られ「私はいらない子」と思った、あの体験を思い出した。

「私のことをちゃんと必要としてくれる人は、いないんじゃないか」