血の河を渡りながら、強く生きていく

 とにかく今作は書いていて楽しかったという桜木さん。「答えが知りたいと思って、常に原稿に向かっていました。そうやって頑張ると、原稿は応えてくれる。私が思いをぶつけたのではなく、書いているうちに出てくるんです。

 モデル小説の仕事って、本人が死んでも語らないことを書くことだと思いますし、それを麻紀さんが許してくださってるということに感謝しています。小説には『私は私になる』という言葉が出てくるんですが、これは書いていて出てきたものなんですよ。なのでこの本はとっても大事な一冊、書けてよかったと思います」

『緋の河』桜木紫乃=著 新潮社 2000円(税抜き)※週刊女性PRIME記事内の画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします
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 タイトルは釧路の街を流れる川面を真っ赤に染める夕日、そして「血の川を渡った人」というイメージからなのだそう。秀男はひとつ河を渡るたびに強くなり、自分の生き方をしっかりと定めていきます。

「この本のサイン会にいらした方に、泣かれたことがあったんです。私は自分の書いたもので泣かれるとは想像していなかったので戸惑ったんですが、『秀坊のように、こんなふうに生きていいんですよね』と、その方から言われて、やっぱり小説というのは読む人が形を与えてくださるものであり、一冊一冊が違うものになるんだなと思いましたね。

 私も秀男の生き方を書いていたら、元気になりました。なのでこの本を読んで、一緒に元気になっていただけるとうれしいです。周りを変えていく人というのは、この世にちゃんと存在していて、人の気持ちをまっすぐ前へ向かせてくれるんです。秀男の誰よりも前向きな生き方、潔いですよ!」

ライターは見た!著者の素顔

 これほどの長編は初めてで、人生をどこまで描くのか、そしてラストシーンも書く前にしっかり決めて、続きのことなど全く考えていなかったという桜木さん。しかし書いているうちに楽しくなり、続きを書きたいと思って編集部へ打診、無事GOサインが出て、現在『小説新潮』に続編を連載中だそうです。また500ページ超の本なので、書店で手にしてビックリする方もいらっしゃるかもしれませんが、前向きな秀男の生き方にグイグイ引き込まれて、寝る間も惜しんで読みふけってしまうこと確実な一冊です。

(取材・文/成田全)