匿名性が高いほど雄弁に

 当然、ヘイトスピーチに代表される匿名での悪口も、気をつけなければならない。

 2018年1月には、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手が、妻に対するネットの書き込みに対し、本人を特定し約200万円の慰謝料を請求したケースがあった。

 使用しているパソコンのIPアドレス(電話における電話番号のようなもの)以外にも、“文章の指紋”が本人特定の証拠になる可能性は高い。

“匿名性が高いほど人は雄弁になる”という科学的エビデンスもあります

 そう堀田さんが指摘するように、人は匿名だからこそ過激になったり、粘着質になったりしがち。匿名を傘に、調子に乗って打ち込んだ誹謗中傷が、思わぬ落とし穴につながるのだから、ネット上においても、もはや“口は災いのもと”だと自覚すべし

「すぐ廃棄できる手書きのメモと違い、LINEなどのメッセージは文章がデジタル上に残ります。消去しても、回復することができる場合もあります。IPアドレスと同じく、“文章の指紋”という言葉がより浸透して、“インターネット上でも完全な匿名やなりすましはありえない”という認識が広まるといいのですが」

 行為の批判ではなく、人格の批判などをすると名誉毀損と見なされる。たとえ事実を言っただけだとしても、人格を否定するようならアウト

 SNS投稿、ウェブサイト・掲示板に掲載したことで個人の名誉が害された場合、慰謝料の相場はどれくらいなのか。弁護士の猿倉健司さんはこう説明する。

高い場合は100万円程度ですが、通常は数十万円程度であることが多いように思います。もっとも、嫌がらせを含み、1年以上にわたるなどのケースにおいては、200万円の慰謝料が認められた例もあります」

 また、相手が著名人となると、

100万~300万円の慰謝料になることもあり、会社・法人の信用を毀損したような場合には、300万~500万円の損害賠償が認められることもあるようです

 という具合に、授業料ではすまない結果となることを覚えておくように。ネットを使った陰湿なイジメや陰口なども、取り返しがつかないことになる。

 さらには、海外ではこんな対応も。

イギリスではすでに、保険会社が言語学者を専任で雇うことがあります。他殺にもかかわらず、自殺を装わせるために犯人自らがパソコンで遺書を書くような保険金詐欺が少なくないんですね。そういった詐欺を暴くために、言語学者に分析を依頼するわけです」(堀田さん、以下同)

 ここ日本では、2019年1月13日から相続法が改正されたことで、自筆証書遺言の目録部分をパソコンで作成することが認められるようになった。デジタル時代に呼応するように、今後はさまざまなことがインターネット上で行われるようになるはず。

 だからこそ、覚えておいてほしいのは、すでにネット上ではウソをつけなくなっているということ!

そもそも文体分析は、贋作も多数存在するシェークスピアなどの作品を“これは本物か否か”といったことを研究してきたような、数百年も前からある学問です。むしろ世の中がデジタル化したことで、より判明しやすくなったともいえます

 伝統的な学問だからこそ、ネット社会の闇を突くことができるというのは、なんとも興味深い話ではある。

「ネットで匿名だから大丈夫」──。そんな考えは通用しなくなっていることをお忘れなく!

(取材・文/我妻弘崇)


●PROFILE●
堀田秀吾(ほった・しゅうご)さん
1968年、熊本県生まれ。明治大学教授、法言語学者。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく多角的な研究を展開。テレビ番組のコメンテーター、法律事務所や芸能事務所の顧問も務めるなど多岐にわたって活躍中。著書に『このことわざ、科学的に立証されているんです』(主婦と生活社)など。