「できますと言っちゃう(笑)」

「今の若い人は知らない国へ行って苦労したがらないって話を聞くけど、日本人はいいものをいっぱい持っているし、やさしくて好かれるから、どんどん出ていって、可能性を試してほしいと思うの」

「ノックド ドア サムバディ オープンド フォーユー」

 叩き続ければ、きっと誰かが扉を開けてくれる。叩きもしないで手が痛いから叩きたくないというのはよくないと。

「昔はお金を出してでも苦労しろと言ったのに。苦労したくないって言ったら、じゃああなた、そのままボヤッとして死ぬの? って言いたいわ。うんと泣いて、うんと頑張って、何かをつかめばいいのよ」

 LiLiCoさんはそんなカオリさんの言葉に感じ入る。

「私も演歌歌手の時代とか、しなくてもいいようなこともいろいろやりましたけど、あれがあっての私なので、経験が宝物になっているんですよね。カオリさんは何倍もその宝物を持ってらっしゃるから、その背中を追いたいなと思います。

 あなたが日本でこうしてやっていること、私にもわかるからとおっしゃってくださって。それだけで勇気が出ます」

LiLiCoさんはカオリさんの笑顔には人を元気にするビタミン剤のような効果があると言う
LiLiCoさんはカオリさんの笑顔には人を元気にするビタミン剤のような効果があると言う
【写真】若き日のブルース・ウィルスとの貴重なツーショット

 カオリさん自身も常に新しいことにチャレンジする気持ちを忘れない。今も始めたい習い事がたくさんあるそうだ。

「特に剣道をやりたいと思っているの。前もやっていたことがあるんだけど、改めて心を静めるために始めたいの。剣道には侍の心構えが入っているのでね。人間は絶えず学ぶ姿勢がないと天狗になってしまうから」

 新しいことを習い始めると、いかに自分が小さく、偉くないのかがわかるのだと話す。ひろみさんもカオリさんにいつも叱咤されているそうだ。

「“あなた、子育ても終わったし、何でもできるじゃない。何したいの?”って聞かれるんです。特にないって言うと、やりたいこと探しなさいよ、もったいないじゃないと。もう普通に過ぎればいいかなと思ってたのに、まだまだできるでしょと。確かに叔母の年齢を考えたら何でもできちゃいますよね(笑)」

 何事に対してもできないと言わず人一倍、努力するカオリさんの姿を身近で見てきた。

「ハッタリでも“できます”と言っちゃう(笑)。それで考えて工夫するんです。負けず嫌いでしょうね。でもだからこそ、ここまできたんだなと」

「逆転人生」。カオリさんは自分の人生をそう語る。

「蒲田じゃ1番のお金持ちって言われるぐらいの家で大事に育てられたけど、戦争ですべてが変わってしまった。それからは進駐軍慰問で家のために働くようになって。でも、あのときの苦労が今の自分をつくっていると思うのね。

 人生いろんなことがあったけど、頑張ればなんとかなるのよね。決まった道はないけれど目的を持ったら、おのずと道が見つかるはず、そうみなさんにお伝えしたいです」

 今日もカオリさんは肌身離さず身につけているビルさんの兵役時代の身分証のタグを握りしめて呟く。

「アイル ドゥ マイ ベスト」

 ベストを尽くすわね。だから見守っていて。


取材・文/森きわこ(もりきわこ) ライター。東京都出身。人物取材、ドキュメンタリーを中心に各種メディアで執筆。13年間の専業主婦生活の後、コンサルティング会社などで働く。社会人2人の母。好きな言葉は、「やり直しのきく人生」