「子育てや介護と両立できない」と切実な声

 勤務時間の延長は、家事や育児、介護を主に担う女性教員にとって、暮らしの土台を揺るがす問題だ。署名でも切実な声が寄せられている。

《子どもの保育園のお迎えが間に合わず、生活が成り立たなくなります》

《健康的な子育てなんてあきらめろ、嫌なら教師をやめろと言われているようなもの》

 文科省は育児中の教員への配慮は大前提としているが、

「時短勤務の申請をすることさえプレッシャーに感じている人は多い。配慮しますよと言われても、教員間で負担に差が出てギスギスした現場になっていく」(西村さん)

「ただでさえ少子化で教員の数は減らされています。育児中の方に配慮するには人員が必要。財源もかけずに通達を出すだけなら何も配慮していないのと同じ」(高橋准教授)

過労死遺族の工藤祥子さんと開いた集会で、西村さんは初めて実名・顔出しで登壇
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【写真】矢面に立ち、顔出し・実名で訴えることを決めた西村さん

 学校がブラックな場所になるほど教員志望者は減っていく。高橋准教授によれば、

「教員採用試験の倍率は、大都市では軒並み低下。私の勤める大学でも、教員免許を取っていても約半数は教職を選んでいません。変形労働時間制になると拍車がかかり、優秀な学生が教職に就かなくなり、相対的に教員の質を下げていくことになるのでは?」

 教員の質の劣化は、授業の質の劣化に直結する。

「小学校での英語など新しい授業がどんどん入ってくると、その都度、勉強が必要になる。例えば2時間は授業準備に割いていたところを、疲れて余裕がなくなれば、今日はもう1時間でいいかな、となるでしょう。その分、授業の質は落ちます。今でさえ生徒から相談があると言われても、10分だけ、すぐ職員会議だから5分だけ、という状況。いじめやトラブルなどに十分に対応できなくなるのではないでしょうか」(西村さん)

 子どもたちのためにも教員が普通に働いて生活できる真の改革が求められている。