「今のところ、2人とも元気ですよ。でも、いちばん怖いのは、私たちがほかの人に感染させてしまい、加害者になってしまうことなんです」

 2月21日、横浜港に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号から下船した静岡県在住の60代の海野忠雄さんと妻の育子さん(共に仮名)は、27日に現在の思いをそう語った。妻の育子さんは、

「毎日、保健所から“大丈夫ですか?”“熱はありませんか?”と安否確認の電話がかかってきます。そして、外に出ないように、人と接触しないように、自宅にも招き入れないようにと言われています」 

 と記者を気遣い、夫妻そろって、北風が厳しく小雨が降る近所の公園で取材に応じてくれた。

国は危機管理ができていない

 1月20日に乗船したが、2月3日に感染者が出てから優雅なクルーズ旅行は暗転。横浜港に向かうことになった─。

 その日の夜には、検査官が各部屋を回って、検温と問診があった。ただ、海野さんの部屋にやってきた検査官は手袋もマスクもしていなかった。

クルーズ船内の検査で口の粘膜を採取される(右)

「同時に多数の検査官が回っていて、友人の部屋の検査官は手袋とマスクをしていたようです。あとで知ったのですが、検査官が感染したと。私たちの部屋に来た人ではないかと思います」(忠雄さん)

 部屋に閉じ込められる不便や、情報不足の不安はあったが、外部からの宅配便の受け取りはでき、落ち着いて過ごすことができたという夫妻。

 しかし、正式な検査は16日にあったが結果は知らされず、判明したのは下船当日の21日だったという。

「その結果が正確だとしても、陰性が確実なのは16日までで、17日以降は感染の可能性があるので、まだまだ安心できませんよ」(同)

 これまで乗船客700人近くが感染して、死者も次々と出ているクルーズ船の“隔離措置”について忠雄さんは疑問を投げかけた。

「感染しなくていい人までも感染させたという責任があると思う。船のクルーは一生懸命にやってくれたので感謝しているし、責任はないですよ。ただし、この国のトップ、政治家はリーダーシップがなさすぎる。東日本大震災のときと同じように、危機管理ができていないと思う」(同)

 高血圧の持病を持つ育子さんはポツリとこう漏らした。

「今の家には引っ越してきたばかりで近所付き合いはなく、幸い私たちがクルーズ船に乗っていたことは知りません。だから、自宅にひきこもって、近所の施設なども利用しないで存在を知られないようにしているんです」

 夫妻は感染だけではなく、心ない偏見への脅威とも闘い続けている。