目次
Page 1
ー フェイシャルセラピストの仕事
Page 2
ー 大学病院にリハビリメイク外来 ー 5年ぶりにメイクした難病の妻と夫の願い
Page 3
ー 「赤デメキン」と言われないための厚化粧 ー 素人主婦の“当たって砕けろ精神”
Page 4
ー 顔の悩みで命を絶った20代女性 ー 生きていくために必要なメイク
Page 5
ー 大学病院に「メイク外来」を新設 ー 高齢者の笑顔を生むボランティア
Page 6
ー 続けていれば、必ず評価される

 ゴールデンウイークでにぎわう大阪・関西万博。「未来医療」をテーマとした国際赤十字・赤新月運動のイベント会場で、ひときわ注目を集めていたのが、フェイシャルセラピスト・かづきれいこさん(73)の体験ブース。やけど痕や傷痕を目立たぬように隠す“リハビリメイク”という独自の技術を紹介していた。

フェイシャルセラピストの仕事

5月4~10日限定で、大阪・関西万博に体験ブースを出典。未来を見据えた医療として、リハビリメイクを紹介した
5月4~10日限定で、大阪・関西万博に体験ブースを出典。未来を見据えた医療として、リハビリメイクを紹介した

「この傷でも隠せますか?」

 不安そうな表情でブースを訪れたのは、北海道から来場していた40代のAさん。

 BCG接種痕がきっかけとなった二の腕にある7センチ四方のケロイドを見せ、かづきさんに悩みを打ち明けた。

「幼稚園のころからケロイドが出始めて、今は手のひら5つ分ほど全身に広がっています。痛み、痒みはつらいですが、それより醜悪な外見を見られたくなくて。隠せる服装を選んで生活しています」

 もともとケロイド体質で、ケガややけどなど皮膚の炎症をきっかけに赤く盛り上がった傷痕ができやすいという。この病気の特徴は、もとの傷の範囲を超えて広がり、時間の経過とともに赤く盛り上がって、ひきつれを起こす可能性があることで、当人の不安は尽きない。

「今、気がかりなのは、胸のケロイドが顔のほうへ広がってこないかということです」

 かづきさんは、Aさんの傷を優しくなでると、「大丈夫よ。ちゃんと隠れるからね」と微笑み、肌に密着する超薄型の「かづき・デザインテープ」を傷痕の上に貼った。

「ちょっと触ってみて」と促されたAさんが、テープが貼られた部分に手を添えると、「デコボコしてない!」と思わず声を上げた。

 これは、手術痕やリストカット痕などの肌の傷痕を目立たなくする目的でかづきさんが約13年かけて企業と開発したものだ。傷痕は凹凸があることで光反射などの影響を受けて目立ちやすいため、まずは無色透明のテープで皮膚をなだらかにするという。

 かづきさんは、テープの上から「かづきイエロー」といわれる黄色のファンデーションをスポンジに取ると、ベージュ色と混ぜながら、軽いタッチで塗り広げ、仕上げにフェイスパウダーを少しずつ重ねていった。

 施術時間は、わずか10分ほど。あっという間に、ケロイドと普通の肌との境目はわからないほど自然になった。「はい、完成! 水に濡れても崩れないから、プールや温泉も入れるわよ!」

 かづきさんが言うと、Aさんの目から涙がこぼれた。

「メイクでここまできれいになるなんて。今まで自分の中で抑えてきた気持ちが込み上げてきてしまって……。胸や腕にあるケロイドは特に憎たらしくて、Vネックやノースリーブは到底無理。いつも隠れる服を選び、それが私の宿命で、ほかに選択肢はないと思ってたから……」

幼稚園のころから、ケロイドに悩んできたAさんは、リハビリメイクで目立たなくなると、「ふたをしていた気持ちが突然開いたみたい……」と喜び、涙した(撮影/矢島泰輔)
幼稚園のころから、ケロイドに悩んできたAさんは、リハビリメイクで目立たなくなると、「ふたをしていた気持ちが突然開いたみたい……」と喜び、涙した(撮影/矢島泰輔)

 かづきさんは「よく頑張ってきたね。よかったね」と優しくAさんの肩を抱いた。

「リハビリメイクは、事故やがん、口唇裂・口蓋裂の手術痕など、さまざまな外傷に悩む方が社会に一歩踏み出すために習得するメイクなんです。医療で処置した後、残ってしまう傷痕に心理的ストレスを抱える方はたくさんいます。人前に出る仕事を諦めたり、外出を控えたり、そこに心のケアと課題があるんです」