大学病院にリハビリメイク外来
かづきさんは、医療の専門家と連携し、大学病院に「リハビリメイク外来」を設け、患者の施術をしている。
そのほか、百貨店への店舗出店、自身のサロンなどでも施術を行うことで、多くの患者と出会ってきた。
「最初は私が施術をしますが、自分でメイクできるようになると、いつでも隠せるという安心感から、次第に気にならなくなり、メイクなしで出かけられるようになる方もいます。最終的なゴールは、傷を隠すことではなく、受け入れ、『もう気にならない』と思えるようになることなんです」
Aさんからは後日、こんな便りが届いた。
〈ケロイドによって傷ついていたのは体だけではなかったと実感しました。リハビリメイクで、マイナスの自己肯定感を出発地へ立たせることができ、未来や可能性を大きく感じる、そんな体験でした〉
5年ぶりにメイクした難病の妻と夫の願い

大阪・関西万博のブースで順番待ちをしていた中に、車いすに乗って夫に付き添われた60代の女性、Bさんがいた。夫に「僕も頬にできたシミをカバーしたいから、一緒にやってみよう」と誘われて、立ち寄ったという。自らが抱える病についても話してくれた。
「ネマリンミオパチーという筋力が低下していく難病を患っています。手が上がりにくくなってきたので、顔を洗うのも不自由ですし、メイクはもう5年くらいしていません。会社員だったころは毎日してたんですけどね。お化粧をしなくなったら、外出するのも億劫になって……」
万博会場の近くに住む夫妻は「朝の散歩がてら通ってみよう」という夫の提案で通期パスを購入。その日は7回目の来訪で、たまたま前を通りかかったという。
かづきさんはBさんの話に耳を傾けながら、目のまわりと頬骨、顎、首筋にかけて強弱をつけながらマッサージを行った。「気持ちいいです」とリラックスしているBさんのフェイスラインは、むくみが解消されたのか、すっきりとした印象になった。
続けて、耳の後ろやこめかみに細いデザインテープを貼ってシワやたるみを引き上げ、眉を整え、ナチュラルメイクが加えられた。
「わぁ、すごい! お化粧をしたのは本当に久しぶりですけど、やっぱりいいですね。このテープ、自分でもできるようになりたいです」
鏡を見て喜んでいるBさんを見守っていた夫が言う。
「妻が前向きに毎日を過ごせれば、病気の進行を遅らせることができるかもしれないし、そのうち再生医療など新しい治療を受けられるようになるんじゃないかと期待しているんです。メイクは気軽にできて、とてもいいですね」

夫もシミをカバーするメイクを体験し、夫妻はお互いの顔をのぞき込みながら、笑顔で会場をあとにした。
リハビリメイク向上のため、開発された「かづき・デザインテープ」は、シワやたるみを引き上げるリフトアップ効果も期待できると思わぬ話題を呼び、シリーズ累計販売84万個となっているベストセラー商品でもある。
傷痕に限らず、加齢による顔の悩みをケアするメイクもまた、かづきさんが大切にしてきた活動のひとつだ。
「『顔じゃないよ、心だよ』ってよく言われますけど、それはきれいごとだと思っています。顔に悩みがあると、本当に元気になれないんです。
リハビリメイクには、一人ひとりの物語があります。私は何万人もの悩みに向き合って、技術を身につけてきました。最初は『たかが化粧』と言われましたけれど、これは医療だと思っているんです」
持病を抱え、「生きるためのメイク」が必要だった、かづきさんの軌跡をたどった。