だが、それゆえ納得のいかないレース後はふて腐れたり、チームメートと衝突することも少なくなかったという。

「感情的だということは周りからはわがままに見えたりしますが、彼の場合も、寮での集団生活の中で浮いて見られたりということはあったんです。でも、感情的で自我の強さこそが、彼のよさでもあって。それを教育ということで、押さえつけてしまうのは指導者としてどうなのかな……と考えました」(両角監督)

 そこで、思い切って高校生の大迫にこうアドバイス。

「“本当に1番になりたいなら、周りや他人に気を遣いすぎるな”“自分の思っているようにやりなさい”と」

 高校卒業後、進学した大学でも大迫はその教えを貫き通した。当時コーチとして大迫を指導した早稲田大学競走部の相楽豊監督は入部1年目からレギュラーの座をつかんだ大迫をこう述懐する。

妻との学生結婚でも貫いた“まっすぐさ”

「入部したてのころは監督やコーチから練習メニューを出して、選手たちはそれに取り組むのですが、大迫は“この練習、何でやるんですか?”とか“練習、変えたいです”とかハッキリ主張してきました(苦笑)。あの年齢で“自分が将来どういう選手になりたいのか”あれだけ見えている学生は珍しいですよ」

 大迫とのやりとりで、特に覚えている言葉がある。

「4年生のときだったと思いますが、“相楽さん、安定は停滞ですよ”って(苦笑)。われわれ指導者はよいときのトレーニングをどうしてもなぞりがちなんです。でも大迫は違う。“自分は勝つんだ”という自分の思いにいつもまっすぐで絶対に守りに入らない。今回のマラソン前も、練習拠点をアメリカからケニアへとガラッと変えましたし。あの言葉は“常に新しい発想やチャレンジで指導してください”というメッセージだったと、いま思うんです

 そんな大学時代に、現在の妻・あゆみさんと学生結婚。長女をもうけている。大学のスター選手が在学中に結婚し父親になるのは異例中の異例。相楽監督も「最初は驚いた」というが、それも大迫の「まっすぐさ」だと感じた。

「そのとき彼が言ったのは、“競技のほうには支障がないように最大限の態勢をとって、これまでどおりやります”と。なかなか、そんな覚悟を持てないですよ」

 その大迫は、東京マラソンでのゴール直前、右手首にほんの一瞬キスする仕草を見せた。右手首には、ケニアでの合宿中に作ったという“ミサンガ”が巻かれていた。ミサンガとは細い紐を編み込んで作られるお守りの一種。

「ミサンガに“YU”と“SUZU”という6文字が織り込まれていて。2人の娘さんの名前なんです」(前出・スポーツ紙記者)

 自分のため、愛する家族のためにも走る大迫。最強ロードはまだ続く──。