「これもご縁ですから」と、何のご縁?

 次の珍客は、お見合いする女性についてきたご友人です。

 義男さん(38歳、仮名)が、お見合い場所のホテル行くと、1階のラウンジ入り口付近に、今日のお相手と思われる女性、明美さん(35歳、仮名)が、もう一人の女性を伴って立っていました。

 “彼女の仲人さんが、お引き合わせに来たのかな”と義男さんは、思ったようです。

 二人のところに近づいていくと、明美さんは義男さんに気づいたのか、恥ずかしそうにうつむきました。

「依田(仮名)です。立岡さん(仮名)ですか?」

 義男さんは、挨拶をしました。すると、明美さんではなく、隣にいた女性が口を開きました。

「彼女が先週、足を捻挫してしまいまして。階段の上り下りがつらい状態なので、今日は友人の私が、車でここまで連れて来ました」

 隣にいた女性は仲人ではなく、ご友人でした。

「帰りも車で彼女を家まで送るので、お見合いをしている最中は、この近くのどこかで待っています」

 こう言うと、ご友人は立ち去ったので、義男さんは明美さんを促してティーラウンジへ入りました。ウエーターさんに案内された席に座り、お見合いがスタートしたのですが、明美さんは、恥ずかしそうにうつむいたり、顔を上げても視線を横にそらしたりで、全く目を合わせようとしませんでした。

「趣味はなんですか?」

「料理を作ることです」

「休みの日は何をしていますか?」

「家で、本を読んだりテレビを見たり」

 何を質問しても、帰ってくるのはひと言、ふた言。一問一答形式の会話に、義男さんは、すっかり疲れてしまいました。

「僕に何か聞きたいことはありませんか?」

「‥‥」

 こんな調子で、50分が過ぎました。

 話も尽きてしまい、義男さんは、「では、そろそろ行きますか?」と言うと、明美さんは携帯を取り出し待っている友人に、『お見合い、終わりました』と連絡を入れたようです。

 義男さんか、会計をすませて明美さんと出ていくと、ラウンジの出口には、先ほどの友人女性が待っていました。そして、バッグの中から小冊子を取り出すと、義男さんに手渡しながら言ったのです。

「今日ここでお会いできたのも、何かのご縁だと思います。私たちは定期的に集まって、友達づくりをしたり、平和な社会になるにはどうしたらいいかを話し合ったりしています。今度お時間があるときに、いらっしゃいませんか?」

 それは、とある宗教の小冊子でした。義男さんは、手渡された小冊子をご友人に返して、キッパリと言いました。

「僕は特別な宗教に興味がありません」

 この報告を受けて、私はびっくりしてしまいました。結婚相談所では、宗教やネットワークビジネスの勧誘は、してはいけないことになっています。

 翌日、明美さんの相談室に、お見合い結果が“お断り”であること、さらに、一緒について来たご友人に宗教勧誘をされたことを報告しました。相談室もびっくりして、こちらに平謝りでした。