たとえば、オープニングトークなどで彼女は夫や娘のことをよくネタにしていた。視聴者の多くは、その「夫」がクイズ番組『連想ゲーム』(NHK)での共演から結ばれた大和田獏であることを知っている。薬丸に「動物との意外な出会い」について聞かれたとき、

家に獏いるし。意外だった。意外だったよ、私は

 と答えて爆笑を誘ったことがあるが、そんな発言も親しみやすさにつながった。また、この番組には主婦になった元アイドルが曜日レギュラーやゲストとして登場することが多く、話題の中心は家庭でのエピソードだった。彼女と薬丸がそんな元アイドルたちと繰り広げるトークを見ながら、みんな、普通にお母さんをやっているんだなという共感を視聴者は得られたわけだ。

 そのまとめ役が彼女であり、いわば「お母さんのお母さん」みたいな存在だったのである。

 ただ、彼女のお母さんぶりは「普通」どころか、ひときわ群を抜いていた。'06年に『放送ウーマン賞』を受賞した際、娘の大和田美帆はこんなスピーチをしている。

中学1年生のときに『はなまるマーケット』が始まりまして、高校3年生まで6年間、母は朝早く起きてお弁当を作って朝ごはんを作って家事をして『はなまる』の現場に向かっていたのを思い出します。それがこうして評価していただいて、娘としても大変誇りに思います

 その甲斐甲斐しい姿は『天まで』で演じた母親像とも重なる。リアルとフィクションの相乗効果で、彼女はまさに史上最高の「日本のお母さん」として輝いたのだ。

 子育ても大好きだった彼女は、5年前、孫が生まれたことも喜び、

長生きしたいですね、やはり。長生きしたい。女の子で、可愛いですよー、ばばバカですが(笑)

 と語っていた。これから「日本のおばあちゃん」としても大いに活躍できただろうことを思うと、63歳での死は残念というほかない。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。